東大卒から2回のリストラ…収入10分の1の仕事で気づいた価値とは
東京都心にそびえ立つ六本木ヒルズ。世界的に著名な外資系の金融機関やIT企業が入居する超高層のこのビルの一室で、上司に呼び出された。
「きょう、荷物をまとめて出ていって」
言われるがまま、デスクや資料を片付け始めた。
東大を卒業してから9年間、土日も関係なく働き続けたのに、同僚との別れを惜しむ間もない。
むしろ、「早くして」とせかされた。
最低限の荷物をまとめ、オフィスを後にした。
残りの荷物は郵送で届いた。
井出有希さん(44)にとって、1回目のリストラ。
「ドラマみたいなこと、本当にあるんだ」
いま、そう振り返る。
3人姉妹の長女として、高知県で生まれ、東京都で育った。
母は結婚を機に、日本航空のフライトアテンダントを退職。そんな母から、いつも言われた。
「あなたたちが大人になるときには、結婚しても、子どもがいても、仕事を続けられるような時代になるのよ」
食卓には季節のメニューが並び、天ぷらはいつも揚げたてだった。
母はこうも言った。
「お料理のお手伝いもいいけれど、勉強もしましょうね」
自立して、バリバリと働く。井出さんはその道をめざし、歩んでいく。
現役で東大に合格。経済を俯瞰(ふかん)できる仕事につきたいと、日本の大手銀行や商社を中心に就職活動した。
面接で、何度も聞かれた。
「結婚したらどうするの?」「子どもができたら?」
「とんでもない会社に入った」
だが、米国の証券大手、ゴー…