根拠ない代替医療 デトックスだけではなく「クレンジング」にも注意
老廃物や毒素を除去して健康になるとうたう「デトックス」には医学的根拠はありませんが、悪いものを体の外に排出すると効果がありそうと感覚的には思えます。デトックスと似た言葉に「クレンジング」があります。「洗う」「浄化する」といった意味です。民間療法としてだけではなく、自費診療クリニックで高額な対価をとって提供されているところも似ています。
「血液クレンジング」と称する代替医療はその代表です。100mLほどの血液を採取し、オゾンガスを混ぜた上で静脈点滴で体内に戻します。採血や点滴が必要ですので医師だけが施行でき、クリニックによっては1万数千円から数万円で提供されています。アトピー性皮膚炎や心筋梗塞(こうそく)や各種のがんに効果がある、免疫力を高める、冷え性・肩こり・疲労を解消する、生理痛を緩和する、アンチエイジングになる、などとあたかも万能であるかのようにうたわれていますが、明確なエビデンスはありません。いくつかの疾患に効果があったとする研究はありますが、対象者が少数だったり再現性がなかったりです。ましてや、これといった病気にない人に血液クレンジングを行って、より健康になるかどうかはきわめて疑問です。
私は、いったん体外に出した血液を操作して体内に戻すのは、感染症や溶血のリスクがありそうで、怖いという印象を持ちます。ですが、黒ずんだ静脈血がオゾンと反応して鮮やかな赤に変わる見た目から、血液がキレイになった、効きそうだと感じる人もいます。写真が「映える(見栄えがよく多くの「いいね」がもらえる)」ためか、SNSでよく紹介されています。
3年ほど前に、複数の芸能人やインフルエンサーがSNSで血液クレンジングを紹介していたのがステルスマーケティングではないかと指摘され、炎上し、国会でも取り上げられた事件がありました。当時、自費診療クリニックのウェブサイトから血液クレンジングのページが消えたりしましたが、ほとぼりが冷めたと思っているのか、いまではけっこう復活しています。
血液クレンジングを行っている医師たちが、本当に効果があると信じているのならば、きちんと臨床試験を行って効果を検証すべきです。たとえば、がんの患者さんを対象にした臨床試験を行って効果が証明できれば、保険診療でも血液クレンジングを使えるようになってより多くの患者さんを救えます。ですが、彼らは検証に消極的です。臨床試験を行わなくてもお金もうけができるからだとしか思えません。万能をうたうのもできるだけ多くの人に売りたいからでしょう。対象を患者ではなく顧客としかみていません。
血液クレンジングという名称からして、積極的に顧客を誤認させる意図を感じます。効果があったとする少数の研究において、想定されている作用機序は抗酸化作用の亢進(こうしん)や生理活性物質を介するもので、血液をきれいにすることではありません。きちんとした医学者は血液クレンジングという不正確な用語は使わないでしょう。
臨床試験で効果を検証するのではなく、より「効きそう」と顧客を錯覚させる方向へ努力が傾けられるのは残念でなりません。効果があるのかないのかわからない代替医療に使われる医療資源を他にまわせば、より多くの患者さんの助けになるはずなのに、実にもったいありません。自費診療で行われる代替医療に対しては、効果が乏しいことを患者さんに説明する義務をクリニックに負わせるなどの対策が必要だと考えます。
連載内科医・酒井健司の医心電信
この連載の一覧を見る- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。