第2回「つらいのは、母の方」支える18歳の息子 悩んだ大学、進学先は
「呼んでいます」
枕元のコールチャイムが赤く光り、機械音のアナウンスが繰り返し響く。
うたた寝をしていた息子(18)はベッドから起き上がると、隣の部屋をのぞき、介護ベッドに身を横たえる母(42)に声をかけた。
「どうしたの?」
「トイレ、行きたい」
母と2人、北海道内の地方都市に暮らす。昨年春、母は、筋力が衰えて体が徐々に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)と診断された。当時高校3年生だった息子は、「ヤングケアラー」になった。
ALSという診断結果も、医師による病気の説明も、母の隣で聞いていた。
――なんで?
言葉が出てこなかった。
実感もなかった。母はまだ、壁をつたうなどすれば自力で歩くことができた。
しかし、筋肉の衰えははやく、数カ月たつと移動にも車いすが必要になった。市街地から離れたバリアフリーの公営住宅に2人で引っ越すことになった。
診断から1年以上がすぎた。いまだに、母の変化を現実として受け止めるのは難しい。
日中は、近くにある重度訪問介護事業所からヘルパーが来て、母の排泄(はいせつ)や食事の介助、身の回りのことをしてくれる。
ALSと診断された母を支えてきた18歳の息子。大学に進学する春を前に、悩んだといいます。自分が家を出ることになれば、1人で暮らすことになる母は…。ヤングケアラーが抱える悩みを、記事後半で詳しく紹介します。
ヘルパーがいない夜から朝にかけては、自分がケアを担う時間だ。
トイレや服薬の介助、体や布団の位置の調節……。症状が進むにつれ、すぐ隣の部屋で寝ている母に、コールチャイムで呼ばれる回数は増えた。手足の力はさらに弱くなっている。車いすに乗せてトイレまで付き添い、ズボンの上げ下ろしも手伝うようになった。
「寒い。エアコンの風が、あたっちゃうよ」
トイレから戻り、ベッドに寝かせた母がつぶやく。
「そんなこと言われても、エアコンの場所は変えられないじゃん」
足元に布団をかけ直しつつ、つい、言葉がとがる。
ただ、母が自分の助けを必要…
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