第4回篠原有司男90歳、ひらめきの源泉 NYのエネルギー吸い取って
大阪の国立国際美術館の若い学芸員が来てね、ボクシング・ペインティングをやりませんか、って。若い人の方が、僕のことをよく理解しているんだよ。そういう提案を待ち望んでいたんだよね。
美術家・篠原有司男さんが半生を振り返る連載「殴り込み 前衛アート道」。全4回の4回目です。(2022年7月に「語る 人生の贈りもの」として掲載した記事を再構成して配信しました)
《1991年、同館の企画展のオープニングに実施することに。ニューヨークの自宅の屋上で小規模にやったことはあったが、本格的な実演はほぼ30年ぶり》
まず最初の儀式として観客を前に秋山祐徳太子が僕をモヒカン刈りにしてくれた。「モヒカンのパワーだ」とか適当に言ってね。普段の髪形は違いますよ、地下鉄乗るのに恥ずかしいじゃない。
このときから、グローブにスポンジをつけ、たっぷり墨汁や絵の具を含ませるスタイル。練習なんてしない。ぶっつけ本番じゃないと面白くない。コンセプトもないけど、右から左に行ったきりで戻らない。もう夢中でボンボン。
でも大阪のときも頭の中は割とクールで、最後に疲れてスリップダウンみたいな感じで倒れるんですよ。みんなを喜ばせようというサービス精神です。あのときはお酒を飲んでいたかな。長さ15メートルのその作品は、ちゃんと国際美術館に所蔵されています。
《90年代後半からは日本や欧米の美術館の企画でボクシング・ペインティングを公開する一方、絵画制作の手法としても確立する》
やると、元祖としての使命感みたいなものがわき上がってくる。60年代の評価はゼロだったけど、今がピーク。昨年末には東京・東品川の画廊でも披露したしね。
やるときは見ている人がいて…