第4回迫る炎、動かない梁「ミッちゃん、ごめん」 父の背中で聞いた叫び声

有料記事奪われた笑顔

長富由希子
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 その日。1年生のミッちゃん(7)は、本当は広島にいないはずだった。

 本名は岸本貢(みつぐ)。4年生の兄ヨッちゃん(9)を「あんちゃん」「あんちゃん」と呼んでは、いつもくっついて歩いていた。

 2人は、母や妹と、空襲を避けるため、4月から田舎で暮らしていた。

 8月5日。

 体調を崩した父を見舞うため、一家は広島に帰省することになった。遠方のため、幼いミッちゃんだけは疎開先に残して。

 しかし、出発後。

 「僕も一緒に帰りたい」

 ミッちゃんが、泣きながら追いかけてきた。

 母は根負けした。全員で駅に着くと、汽車の時刻を過ぎていた。

 その日のうちに広島に着けなくなった。そう思われたが、その日は汽車の到着がたまたま遅れていた。5日夜、広島の自宅に帰り着いた。

 6日早朝。

 ヨッちゃんとミッちゃんは、久しぶりの広島のまちがうれしくて、疎開前の学校で、かけっこをして遊んだ。

 朝食後。涼もうと家族で家の…

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この記事を書いた人
長富由希子
大阪社会部
専門・関心分野
社会保障、人権、精神疾患、原爆
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