第5回民主主義は「終わっている」のか チャーチルの言葉が映す統治の本質

有料記事解なき今を照らすために

聞き手・池田伸壹
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 世界ではウクライナガザで流血が続いています。これからの世界はまたブロックごとの対立の時代を迎えるのでしょうか。民主主義は「オワコン」ですか。2025年にアジア出身の女性として初めて世界政治学会(IPSA)会長に就任する、政治学者の粕谷祐子さんに、世界の中で日本人が生きていくためには何が大事か、聞いてみました。

 ――ウクライナでもガザ地区でも流血が続いています。世界は分断と対立の渦中にあるように見えます。世界は冷戦期のようなブロック対立になるのでしょうか。

 「私の専門は、主に世界各国の国内政治を理論的に分析する比較政治学という分野です。その立場からみると、確かに対立は目立ちますが、国ごとにまとまる形でのブロック化に向かっているとは思いません。第2次世界大戦後からベルリンの壁崩壊までは、ある程度、国を単位に陣営化していました。一方、現在の対立のあり方は、同じ国の中でも様々なレベルで争点ごとに異なる立場があり、複雑になっています。『民主主義陣営対独裁』といった単純な図式ではとらえきれません。例えばイスラエルとハマスを巡って、米国は国家レベルではイスラエルを支持していますが、パレスチナを支持するグループも国内に複数存在します」

 「米国のバイデン大統領が提唱している民主主義サミットにしても、民主主義という政治体制や理念を軸に、米国陣営とそうでない陣営を分けようとしているようですが、米国以外の国からは賛同を得ていないようにみえます。一方の中国も、一帯一路構想などを通じて陣営をつくろうとしていたようですが、成功しているとはいえません」

 「要するに、世界が何らかの対立軸を持って国単位で陣営に分かれるというような単純な図式は、実際には起こっていないと思います。一方で、例えば米国における人工妊娠中絶の是非の問題や、欧州各国における移民難民の受け入れ問題などは、それぞれのレベルで今後も対立が継続していくと思われます」

 ――危機を迎えているとされる民主主義は「オワコン」ですか。

 「民主主義が危機を迎えているというのは、様々な意図を持った人による誇張に聞こえます。例えば中国政府は西側の民主主義を批判し、2021年には『米国の民主主義が疲弊している』という趣旨の報告書を公開しました。習近平政権の『戦狼(せんろう)外交』方針により、中国人外交官が米国や民主主義をソーシャルメディアで非難しているとも報道されています」

 「米国内の政治的混乱が『民…

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    小林恭子
    (在英ジャーナリスト)
    2024年1月1日18時32分 投稿
    【視点】

    筆者が今住む欧州でも、「民主主義の危機」という言葉をよく見かけるようになりました。  この記事の中の以下の部分をとても重要と感じました。  「米国内の政治的混乱が『民主主義の危機』説の論拠として利用されることが多いですが、これに関しては

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