わんこそばも自動化? NYタイムズが推す盛岡、「8がけ」への答え

有料記事8がけ社会

太田原奈都乃
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 海外の目が、みちのくの城下町に光をあてた。

 昨年1月、米紙ニューヨーク・タイムズNYT)の特集記事「今年行くべき52カ所」でロンドンに次ぐ世界2番目に紹介された盛岡市。市内はその後、国内外からの観光客でにぎわった。

 3年前まで記者が勤務した初任地だ。山々や川の自然が街の景色に溶け込み、和洋折衷の伝統建築が並ぶ。穏やかな時間の流れも気に入っていたが、記事には驚いた。

 昨年12月、現地を久しぶりに訪れた。

 「うそだって」「盛岡でいいの?」。久しぶりに会った地元の人たちはそう口をそろえた。あちこちに記事が飾られ、駅のポスターに「世界の人が憧れる街」というキャッチコピーが躍っていた。

 観光ガイドを務める照井孝さん(75)と市内を歩くと、それでも商店街にはシャッターが閉まったままの店があり、日中なのに道ゆく人が少ない。照井さんは「何にもない、何でもない、東北の片田舎」という。

 2000年に30万人超あった市の人口は、40年に25万人を割り込む見通しだ。市は昨年3月の「人口ビジョン」で「生活のあらゆるところに影響が及ぶことが懸念される」と危機感をあらわにしている。

 照井さんが妻と二人で暮らす団地にも独居老人が増えた。近くの飲食店は営業時間が短くなり、妻の通院に欠かせないバスも減便している。「8がけ社会」は着実に迫っている。

 取材で、記事がもたらした変化に気づいた。照井さんは15年間のガイド歴で初めて、偉人の胸像をきれいにする活動を仲間と始めた。「通りすぎるだけだったものを見直して今あるものを大切にしたくなった」という。「街全体がそうなったのかなと思います」

 コロナ禍が明けた老舗わんこそば店「東家」には観光客が戻っていた。わんこそばは、食べ始めから食べ終わりまで給仕がもてなす。ここでも働き手は足りていない。5代目社長の馬場暁彦さん(53)は「今向きではないビジネス」と笑う。でも、と続けた。「戻ってきたお客さんを見て再認識したのは、給仕の必要性。古来伝わるせいいっぱいのおもてなしはロボットにはできない。そんな未来は今は考えていませんよ」

発想を変えるには

縮みゆく日本社会は、海外をルーツとする人の目にどう映るのか。迫られているのは「絶望」ばかりではありません。記事の後半で、盛岡をNYTに推薦した米国人作家に話を聞きました。

 NYTで盛岡を紹介したのは…

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    天野千尋
    (映画監督・脚本家)
    2024年1月11日9時1分 投稿
    【視点】

    ちょうど昨日、NYタイムズの「2024年に行くべき52カ所」が発表され、昨年の盛岡に続き、今年は山口市が第3位に選ばれました。 昨年1位のロンドン、今年2位のパリなどと並べられると、「なぜ盛岡?」「なぜ山口?」と一瞬ハテナが浮かぶ人は多いの

    …続きを読む