元機長・管制官が読み解く交信記録 海保機とJAL機衝突
東京・羽田空港で日本航空(JAL)の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突、炎上した事故で、複数の元機長が取材に対し、「ナンバーワン(1番目)」という管制官の言葉を海保機の機長が誤解した可能性を指摘した。
国土交通省が3日に公表した管制官との交信記録には、事故直前の管制官と両機とのやりとりが残されている。
複数の元機長や元管制官が注目したのは、事故2分前の2日午後5時45分のやりとり。管制官が海保機に「ナンバーワン。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」と指示し、海保機が「滑走路停止位置C5に向かいます。ナンバーワン。ありがとう」と応じた場面だ。滑走路停止位置は、滑走路の手前の誘導路上にある。
「滑走路へ急いだ可能性」
全日本空輸(ANA)の元機長で航空評論家の内藤一さん(71)は、海保機がJAL機に着陸許可がおりていたことを認識していなかった可能性があるとしたうえで、「海保機に勘違いがあるとすれば、『ナンバーワン』という言葉では」という。「この言葉によって、海保機のパイロットが滑走路へ入るのを急いだ可能性がある」という。
JAL元機長の八田洋一郎さん(75)も「海保機のパイロットが『ナンバーワン』という言葉を聞き、管制から離陸許可まで出たと拡大解釈してしまったのではないか」とみる。
八田さんによると、パイロットは管制官の指示通りに動かなければならない。通常、管制官が出発機に「ナンバーワン」と伝えれば、それは「離陸の順番が1番目」を意味する。今回、交信記録では、管制官は海保機に滑走路停止位置までの走行しか指示していない。にもかかわらず、海保機は滑走路に進入しており、「指示通りに動かなかった海保機のパイロットに誤認識があったとみられる」と話す。
災害支援など緊急時は優先も
一方、管制官歴17年で、中部国際空港で主任航空管制官を務めた田中秀和(ひでたか)さん(41)は、管制官の「ナンバーワン」という指示は、海保機を優先して離陸させるための指示だった可能性もある、とみる。
海保機は能登半島地震の救援のため、新潟航空基地に向かおうとしていた。当時、海保機とは別の誘導路に、先に管制官とやりとりしていた他の民間機が待機していた。
田中さんによると、災害支援などの緊急時は、管制官の指示で離陸の順番を変えることはありうるという。「今回も地震の救援に向かう海保機を管制官が優先し、『ナンバーワン』と指定した可能性もある」と指摘する。
田中さんは、交信記録だけみればおかしな点はないとしたうえで、「管制官であれば、地上レーダーの画面などで、海保機が滑走路に進入したことに気づくことができた可能性はあった」という。「エラーは起こり得るが、通常は当事者の誰かが瞬時に気づいて、事故を防ぐ。今回は管制官や、海保機・JAL機の機長や副操縦士らの目を全てくぐり抜け、事故が起きてしまった」
元JAL機長で日本ヒューマンファクター研究所長の桑野偕紀(ともき)さん(83)は、数多くの航空機事故の原因を調べてきた。「今回は管制官との交信をめぐるヒューマンエラーが事故原因である可能性が高い。だが、仮に一つのエラーがあっても、事故に結びつけない仕組みがなぜ構築されていなかったのか、という点まで検証をしてほしい」と話している。
海保は3日夕、海保機の機長から事故直後に「滑走路への進入許可を得たうえで、進入した」という報告を受けていたことを明らかにしている。国交省は「記録を見る限り、海保機に対して、滑走路への進入許可は出ていない」とした。
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事故の影響で4日も欠航が相次いだ。
国交省によると、同日午後4時時点で羽田を発着する国内線が212便欠航となった。午後6時時点で、ANAで95便、JALで82便、スカイマーク9便が欠航。少なくとも計3万8千人に影響が出た。
現場のC滑走路は使えない状況が続き、再開の見通しは立っていない。
ANAの担当者は「機材と乗員がそろわない状況が芋づる式に起こっている」と説明する。4本ある滑走路のうち1本が使えないことで運航本数が制限されているほか、前日夜の欠航が翌日早朝の運航に響いているという。
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