飛び降りる悪夢を見ても 星々と歩んだ最年長棋士・青野照市の50年

将棋の現役最年長棋士・青野照市九段(70)は11日、敗れれば引退が決まる勝負に臨んでいる。東京都渋谷区の将棋会館で指されている第82期名人戦・C級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)9回戦。現役最年少棋士の藤本渚(なぎさ)四段(18)との対戦となった。4月で現役生活50年。A級在位11期を誇る棋士は、残り2勝に迫った通算800勝を目指して深夜に至る勝負に臨んでいる。

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 小さい頃、天文学者になりたかった。

 両親に買ってもらった望遠鏡は宝物だった。夜空を眺める時間が何よりも好きだった。

 今月31日には71歳になる青野照市は穏やかな顔で笑う。

 「星が好きでねえ。小さい頃、夢を見るように見ていました。大人になってからもハレー彗星(すいせい)やらヘール・ボップ彗星やら。ハレー彗星は全然見えなくてね。残念ながら、次に地球に接近する時(2061年)は生きてないですね。今でもね、家電量販店に行くと、つい天体望遠鏡のコーナーを見ちゃうんですよ。もしかしたら、棋士になるより向いていたのかなあと思ったりします」

 天文学者にはならなかったけれど、棋士となって、輝ける星々たちの光を浴びてきた。

 出身地は、日本有数の漁獲高を誇る静岡県焼津市。水産加工業を営む家庭で生まれた。

 縁台将棋を好んだ祖父の影響でルールは幼少期から知っていたが、将棋に夢中になり始めたのは小学6年になってから。後に棋士になる者としては晩学の歩みだった。

 「学校帰りに本屋に行って、将棋の本を読んだら面白くて。立ち読みで覚えたんですよ。土日になると地元の支部に行くようになって」

 中学に入って急成長を遂げ……

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この記事を書いた人
北野新太
文化部|囲碁将棋担当
専門・関心分野
囲碁将棋