トイレトレーラー、能登地震の被災地で活躍中 京都府亀岡市からも
車で牽引(けんいん)して運べる「トイレトレーラー」が、能登半島地震の被災地で活躍中だ。クラウドファンディングなどで購入した全国20自治体が「災害派遣トイレネットワーク」を組織。息の長い支援を続けている。
能登半島地震の発生から半日後の1月2日早朝。七尾市長からの派遣要請を受けた京都府亀岡市の桂川孝裕市長の指令が飛んだ。
市自治防災課の斉藤和則・副課長ら3人は消防団の積載車のハンドルを握り、被災地へ向けて出発した。積載車が牽引したのはトイレトレーラー。府下で唯一、亀岡市だけが所有する移動式トイレだ。
洋式トイレの個室が三つあり、うち一つは車椅子向けの広さとリフトを備える。トレーラーの天井には太陽光発電パネルがあり、照明もつく。換気扇や手洗い台、おむつ交換台も備え、ざっと1250回分使用できるだけの汚物タンクと貯水タンクがある。くみ取りと給水は被災自治体が担当する。
斉藤さんらが七尾市の田鶴浜地区コミュニティセンターに着いたのは深夜11時半ごろ。当時200~300人の市民が避難していたが、すでに暗く静まり返っていた。
すぐにトイレトレーラーを切り離し、コミュニティセンター玄関の車寄せに設置。平時は保津川花火などの屋外イベントで利用しているため、設置作業はお手のものだ。トイレトレーラーの被災地入りは亀岡市が一番乗りだった。
トイレトレーラーを切り離して担当者が別行動に移れる点が、自走式トイレカーにはないメリットだ。「まるでサンタクロースのようにそっと置いて、帰路に就きました」(斉藤さん)。現地での滞在時間は2時間ほどだった。
被災者が喜ぶ姿を自分の目で実際に見ることはできなかったが、1月21日に現地の水道事情が改善してトイレが復旧するまで利用され、「おかげで助かった」「ほんまにありがとう」と感謝されたと聞いた。
トイレトレーラーは再び牽引され、翌22日には石川県珠洲市の避難所となっている市立緑丘中学校へ。周辺住民や災害ボランティアもトイレのために立ち寄るといい、上下水道の復旧が遅れている現地で活躍中だ。3月31日には同じ珠洲市内にある宝立浄水場へとさらに「転戦」する予定だ。
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亀岡市は2022年7月にトイレトレーラーを導入した。約2千万円かかった費用のうち、地方交付税として戻る緊急防災・減災事業債で7割をまかなった。残り3割はふるさと納税型クラウドファンディングで600万円を目標に寄付を募ったところ、現金での寄付も含め824万円が集まった。通常のふるさと納税のような返礼品はないものの、寄付者自らが「被災地に赴き、支援している」と感じられるよう、1万円以上の寄付者についてはトレーラーの後部面に一人ひとりの名前を記した。
こうした支援の枠組みは、一般社団法人「助けあいジャパン」が整備した。トイレットペーパーの生産量日本一を誇る静岡県富士市が全国に先駆けてトレーラーを導入し、現在では北海道から九州まで亀岡市を含む20自治体が「災害派遣トイレネットワーク」を組織。能登半島に全国のトレーラーを集結させて支援を進めている。助けあいジャパンは「1カ所でも多くの自治体がトレーラーを導入し、災害時に素早く被災地に派遣できたら、被災者にとって最も深刻なトイレ不足の問題が解消される」と呼びかける。
亀岡市では現在、トレーラーを牽引するのに必要な免許を取得する職員を年間2人ずつ養成中だ。車庫も市内に整備を進めているカーシェルター(車中泊避難者専用駐車場)に建設中で、新年度に完成する。
トイレトレーラーを所有し、災害派遣トイレネットワークに加盟する全国20の自治体
北海道沼田町、秋田県大仙市、千葉県君津市、山梨県北杜市、山梨県富士吉田市、群馬県、群馬県大泉町、埼玉県越谷市、神奈川県鎌倉市、新潟県見附市、静岡県富士市、静岡県西伊豆町、愛知県刈谷市、京都府亀岡市、大阪府箕面市、大阪府泉佐野市、奈良県田原本町、高知市、福岡県篠栗町、福岡県須恵町
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