ヒグマ「穴狩り」の伝統をつなぐ 人里出没抑制で解禁、記者が同行
全国でクマによる人身被害が急拡大する中、国内最大級の陸上動物・ヒグマが生息する北海道で雪が残る春先に捕獲し、人里への出没を抑える対策が本格化している。「絶滅政策」と批判された春グマ駆除が廃止されて30年余り。人里周辺に限って再開が認められた伝統的な「穴狩り」に記者が同行した。
穴狩りとは、ヒグマが山で木の根元などに穴を掘り、その中で冬眠する習性を利用した狩猟法。江戸時代の資料によると、アイヌ民族が残雪期に山に分け入って冬眠中のヒグマを狩っていたことから、「穴熊猟」ともいわれる。
3月10日午前8時、北海道南部の渡島(おしま)半島にあるベテランハンターの男性(70)宅に、40代のハンター4人が集まった。車に分乗して5分ほど。牧草地で降りるとスノーシューを履く。雪原を40分ほど歩くと、小雪の舞う山際に着いた。
この日は男性が昨春までに見つけた四つの穴を巡る。ヒグマが中にいる場合の配置を男性が説明する。「俺が穴を棒でつつく。撃ち手は穴の上に2人、俺の後ろに2人。クマが出てきたら首を狙え」。若手の一人は「いきなり出てくるクマもいるんですか」と質問すると表情を引き締めた。
穴狩りは1990年の春グマ駆除廃止とともに禁止された。経験者は少なく、男性は熊撃ちだった父からやり方を教わった。「穴からのそっと出てきた母グマを撃ったら、子グマが飛び出してきて逃がしたな」。かつての体験を若手に語った。
ハンターたちはスノーシューを脱ぎ、道なき急斜面を背の低い木やササをつかみながら登っていく。冬眠明けのクマに出合えば捕獲する構えは崩さない。記者は安全対策のためクマ撃退スプレーを腰に携行した。
スギの植林地を20分ほど登ると、穴がある場所の上に出た。「穴の下から近づかないのが鉄則」。男性が話す。
全員が猟銃に弾倉を装着する。男性の指示で若手がその場で背の低い木をナタで切り、穴をつつくための2メートルほどの棒を作った。
ライフルを肩にかけ、静かに…