神奈川県立障害者施設に「医療空白」 治療受けられず失明した事例も
神奈川県立の障害者施設「中井やまゆり園」(中井町)で、入所者の健康管理や医療機関への受診が適切にされていない「医療空白」が生じているとして、県は福祉や医療の専門家らによる医療・健康管理問題改革委員会を立ち上げて、対策に乗り出した。今年度中に中間報告をまとめるという。
中井やまゆり園では2020年に入所者の居室を長時間施錠していたことが明らかになり、その後複数の虐待事案が発覚した。昨年5月には支援改革プログラムをまとめて支援の見直しを進めてきた。
18日に県庁で開かれた委員会の初会合では、黒岩祐治知事が「改革を進めるなかで医療空白の問題が見えてきた。ある種、医療的に放置されている」と述べた。
委員会のメンバーらによると、この日の委員会では20~70代の入所者10人の事例について議論した。
11月に園の医務統括補佐に就いた看護師の上野正文さんによると、痛風が悪化して糖尿病の前段階まで腎機能が悪化していた▽4年間で体重が10キロ減り、貧血も進行していた▽(血を止める)血小板の数値が、歯磨きをすれば歯茎から出血がとまらないレベルまで下がっている――といった事例が起きていたという。「目を疑うような検査結果なのに、何も(医療の)介入がなされていなかった」
このほか、施設内で過ごしていたにもかかわらず脱水症状で救急搬送されたり、職員による付き添い対応が困難だとして入院させなかったり、といった事例も議題に上ったという。
救急搬送は「県庁の許可が必要」
委員会の議論のなかで浮かび上がったのは、医療と福祉の連携不足だ。
ある年配の入所者は、健康診断で白内障の症状があることがわかっていたのに、その診断結果が家族に伝えられていなかった。そのまま治療を受けずに放置され、翌年度の健診で失明していることがわかった。その後、手術で片目については視力が回復したという。
また、この入所者は車いすで生活していたが、人事異動などで職員が頻繁に入れ替わる一方、入所者に対する支援状況が記録されておらず、入所者がいつから車いす生活になったかもわからない状況だったという。
外部アドバイザーの羽生裕子さんは「長時間の居室施錠が行われるなかで、利用者と職員との関わりもなく、(健康状態を)医療者にきちんと説明できていない」と指摘した。
さらに、救急車を呼ぶのに県庁の許可が必要だったり、発熱時に医師の指示もなく解熱剤を飲ませていたりといった運用もあったという。
一橋大法科大学院客員教授の児玉安司委員長は「サービス向上に向けたシステムやマニュアル、他職種連携の組織づくりなど、多くの課題があることが浮き彫りになった」と述べ、今後ガイドラインをまとめる考えを示した。