藤井聡太名人(21)=竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖と合わせ八冠=に豊島将之九段(33)が挑戦する第82期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)は11日午前、東京都文京区のホテル椿山荘東京で前日から指し継がれ、対局2日目が始まった。
昨期、40年ぶりの史上最年少名人となった藤井名人は初防衛を、第77期に名人位を得た豊島挑戦者は5年ぶりの復位を目指すシリーズ。1日目は振り駒で名人の先手となり、挑戦者の誘導で相居飛車の力戦に進んだ。中段で飛車角が乱舞する「動」と、相手の主張を消し合いながら重厚に戦う「静」を併せ持つ勝負。名人戦らしい格調を漂わせたまま、封じ手を迎えた。1日目の消費時間は、藤井名人3時間49分、豊島九段4時間19分。
立会人は青野照市九段(71)。朝日新聞副立会人・新聞解説は中村太地八段(35)。大盤解説は藤井猛九段(53)。聞き手を脇田菜々子女流初段(27)が務める。
対局中継と大盤解説中継はyoutube「囲碁将棋TV-朝日新聞社-」で配信。朝日新聞デジタルでは対局の内容や現地の様子をタイムラインで徹底詳報する。
将棋担当・北野新太の目
感想戦で感じた「変化の人」の覚悟
最終盤の大逆転劇により、名人の先勝で幕を閉じた第1局。
感想戦の冒頭で印象的な瞬間があった。
未知の世界に突入した序盤の▲4八金の局面。代えて▲3八銀とした場合の変化について、藤井は盤上での検討を深めようとしたが、豊島は言葉を発さず、分岐の奥へと足を進めることを柔らかく拒んだ。
終了後、検討陣の棋士たちに尋ねると、▲4八金は研究テーマとなり得る局面だけに、七番勝負の今後を見据え、読み筋を秘めるのは自然なことらしい。
AI研究が先鋭化した現代では、有力な作戦は一度しか使えない、とも言われる。有力であればあるほど、AIで解析した対策が瞬く間に棋士間で共有されてしまうからだ。感想戦での言及は武器を失うことにもつながりかねない。
痛恨の落手で好局を落とした直後だったが、挑戦者は次局以降を見据えた戦いを始めていた。切り替え、という言葉よりも強く、勝負への強固な意志を語る表情にも映った。
開幕局を取材しながら、ずっと心の中にあったのは3月下旬の事前インタビューで豊島がふと漏らした言葉だった。
「無冠になって、どうしよう…