視覚障がい者が花見山を楽しむ 「満開の花が見えた」 福島

岡本進
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 福島市の観光地の花見山公園で13日、視覚に障がいがある人たちを案内するツアーが初めて催された。きっかけは、昨年秋にあった一つの問い合わせだった。

 「花見山に行きたいと、ずっと思っているのですが、行けなくて」。市内に住む菅野典子さん(51)から、そんな問い合わせを受けた福島市バリアフリーツアーセンター長、佐藤由香利さん(48)は最初、理由がわからなかった。

 佐藤さん自身、リウマチで車椅子を使用しているが、花見山はお気に入りの場所だ。

 菅野さんには、視野の中心が欠ける障がいがある。視覚障がい者は物に触ることで形を理解するが、花に触れていいものなのか。そう心配していた。

 そして、この日。市の観光コンベンション協会主催で、菅野さんをはじめ4人の視覚障がい者が花見山を歩いた。ボランティア団体「ふくしま花案内人」が案内役を担ってくれた。

 白杖(はくじょう)をもった菅野さんに、腕を握ってもらってガイドヘルパーを務めたのは、近所の本多達子さん(67)。「花案内人」に入って11年の志賀貴恵子さん(71)が、満開の花を順に説明した。

 「これは『わびすけ』という名前の花」

 菅野さんは顔を近づけて香りをかぎ、花に触れた。「花びらは何枚ですか」と尋ねると、志賀さんが「5枚」と答えた。

 「11時の方向に白い利休梅(りきゅうばい)があります。例年だと大型連休前に開花するが、今年は早い」

 「これはボケ。まりのように赤い花が集まっています。でも、とげがあるから気をつけて」

 標高は約180メートルで、頂上まで細い山道が続く。「周りの山が低く見えてきたので、かなり上まで来ましたよ」。位置がわかるように、志賀さんが声をかける。

 菅野さんが、訪れるのをちゅうちょしていた理由は、もう一つあった。白杖で歩くことで、ほかの観光客の迷惑になりはしないかと思った。だが、みんな花を楽しみに来るので、立ちどまっていると、珍しい花でもあるのだろうかと後ろの人ものぞきにくる。追い越していく人など1人もいなかった。

 菅野さんたちは、1時間コースを1時間半かけて歩いた。

 「『百聞は一見にしかず』と言うが、視覚障がい者にとっては『百聞は一体験にしかず』で、体験が重要なんです。花見山には、中学のときの遠足で来たことがあったけど、かすかにぼやけて見えた土の茶色の記憶しかなかった。満開の花の鮮やかな色が私には見えた」

 そう菅野さんが話していると、風に吹かれ、ソメイヨシノの花びらが次々と舞った。「花吹雪よ」と本多さんが声をかけると、菅野さんが青空に向かって顔を上げた。

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