宗田理さんから受け取ったぼくらの〈背骨〉 寄稿・森晶麿(小説家)
小学五年の頃、映画「ぼくらの七日間戦争」のテレビ放映を観(み)て、すぐさま角川文庫の〈ぼくらシリーズ〉を集め始めた。それまでまったく読書の習慣が身についていなかったから、すすんで親に小説を買ってくれなどとねだったのは、初めてだった。
〈宗田理(そうだおさむ)を読む〉という行為は、小学五年の男の子にはだいぶ背徳の匂いがした。作中の中学生、相原と菊地を筆頭に、一年二組の生徒たちがきたない大人を相手に勇気と頭脳とユーモアで戦いを挑む物語から、目が離せなかった。特別な悪人ではなく、あえてそのへんにゴロゴロいそうな大人たちを描き、〈きたない〉と教えてくれる禁断の授業。その気になれば、自分だって大人たちに挑戦することはできるのだ、そう諭されている感覚があった。
それまで虚構と現実の世界にくっきりとあったはずの境界線が取り払われて、この日常でさえも自分の手で変えることは不可能じゃないんだ、とぼんやり思い始めた。
結局、中学を卒業し、ミステリを読み耽(ふけ)りだす高校時代までずっとシリーズを追い続けることになった。〈宗田理を読む〉体験は、ひっそりと読書習慣の下地になってくれたのだった。
訃報(ふほう)を聞き、久々…
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- 【視点】
小学六年の頃、映画「ぼくらの七日間戦争」を映画館で観て、いてもたってもいられない気持ちになったことをはっきりと覚えています。いま思えば〈何か大切なものにふれたんじゃないか、ぼくは〉といったような。それまでまったく読書の習慣が身につくどころか
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