第9回手のひら冷却、シャーベット 甲子園の理学療法士が勧める熱中症対策

防ぐ 熱中症 スポーツの現場から

聞き手・大坂尚子
[PR]

 高校野球熱中症をどう予防するか――。昨夏の甲子園ではクーリングタイムが導入された。理学療法士として携わってきた大阪電気通信大の小柳磨毅教授(62)=理学療法学=に対策や課題を聞いた。

 ――熱中症対策を重視し始めたのはいつですか。

 熱けいれんを疑わせる選手がたくさん出て、ゲームが中断し、ベンチ裏で対応することが増えてきたのは10年近く前でしょうか。地方大会で熱中症になっていないか、事前にアンケートを取り始めたのもそのころです。

 ――「手のひら冷却」も効果があると話題になりました。

 3年ぐらい前、大学野球部に協力してもらい、(体の中心部の)深部体温を測ってモニタリングしましたが、体温を下げる効果がありました。

 投手にとって指先はデリケートな部位ですが、手のひらを冷やすことを推奨しています。クーリングタイムでも首を冷やしています。送風機の風に当たっている間、冷たい飲み物を持って、手のひらを冷却しながら、水分を取ることもオススメです。

 ――昨年から、五回終了後の10分間のクーリングタイムが設けられました。

 選手の熱中症対策と健康管理に集中する時間ができたのはよかったと思います。新しい試みなので、六回表に登板する投手や守りにつく野手を、もう少し早めにグラウンドに出した方がいいといった、反省点はありました。クーリングスペースに設置されているサーモグラフィーを選手に見せると、クーリングへの意識が高まった感じもあります。

 ――クーリングタイム導入で変化はありましたか。

 大会序盤にクーリングタイム後に足がつるケースがありました。調べていくと、決してクーリングタイムをとったから、そういう症状が増えたわけではありませんでした。クーリングタイム中のベンチ裏で、けいれん症状を訴える選手が多かったという印象もありません。昨年の熱中症発生件数は、過去数年間と比べると少なくなっていました。

 ――選手の意識は高まりましたか。

 格段に高まりました。ベンチ裏からのぞくと、「冷却のやつ、貸してください」などと言われることが増えています。指導者の先生も選手もパフォーマンスを落とさないように、熱中症対策は大切という意識を持っていると思います。アイススラリー(シャーベット状の飲料)を持ち込んでいるチームも、結構増えてきています。予防対策は浸透してきていると思います。

 ――冷やしすぎて危ないことはありませんか。

 生理学が専門の先生にも聞いてみましたが、はっきりとそういう根拠は無いとのこと。クールダウン後、ゲームに戻る前に余裕をもって準備をすることが大事だと思います。

 ――いつから高校野球に関わっていますか。

 1993年に始まった出場校投手の「肩・ひじ検査」を手伝い、95年から正式に関わるようになりました。もともとは傷害の予防や対応がメインでした。昨今の夏の大会は熱中症の対策がかなりのウェートを占めています。

 ――これまでで最も重い症状は。

 意識を消失した選手は経験したことはありませんが、症状が重い選手は必ず医師に診察してもらうようにしています。医療機関に搬送して処置を受けた後、選手の様子を見て宿舎に帰した事例は何回かありました。

 診察を受ける選手は減ったとはいえ、毎年一定数は出ます。対策を講じても、熱中症は起こるものという前提で、重症化の予防や早い処置、救急要請ができる体制を常に取らないといけません。

 ――猛暑の中でスポーツをする際、気をつけるべき点は。

 こまめな水分摂取です。現状のエビデンスで一番効果的なものは、スラリー状(シャーベット状)のものをこまめに摂取するといった方法と考えています。昨年のクーリングタイムでも奨励しました。できれば回数を増やして、試合中も序盤の二、三回、後半の七、八回にも、ベンチやベンチ裏で摂取できるように準備しようという話になっています。

 ――体を鍛えていても熱中症は起きますか。

 (暑さに体が慣れる)「暑熱順化」という生理現象があります。しかし普段の練習である程度慣れていても、常に練習しているから大丈夫だという過信は良くありません。

 甲子園では、熱中症の症状が出る選手は初戦の比率が高い。睡眠不足のほか、精神的な緊張などの影響も考えられます。

 ――学校でもできる工夫は。

 アイススラリーは、家庭用のミキサーでも作れます。スポーツドリンクを凍らせたものをシャーベット状にして水筒に入れておく。ゲーム中に定期的に摂取することはチームでできると思います。

 ――地方大会でもベンチ裏に扇風機を設置するなど、対策は進んでいます。

 春季大会や夏の地方大会からやってほしいことがあります。冷たいものを摂取すると、おなかを壊す選手もいます。シャーベット状の飲料を今から少しずつ試しておくことを薦めます。おなかを壊す選手は常温のスポーツドリンクを摂取し、大丈夫な選手は少しずつシャーベット状のものでこまめに補水する習慣をつける。夏に向けて、今からできる予防対策になります。

 ――今回、甲子園では一部の日程で2部制が導入されます。

 新しく試みる意義はあると思います。日照量が減ると熱中症の発生率も低くなります。そういう意味では選手にとってはプレーしやすい環境が増えると期待しています。

■高校野球 熱中症対策のポイント

・春や夏の大会から、こまめな水分補給のくせをつける

・凍らせたスポーツドリンクをミキサーでシャーベット状にして水筒へ

・冷たい飲み物を持って、手のひらを冷却しながら水分を取る

・五回終了時以外でも2、3イニングごとに水分を摂取

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
大坂尚子
スポーツ部
専門・関心分野
野球、アメフト、フィギュアスケート、陸上

連載防ぐ 熱中症 スポーツの現場から(全15回)

この連載の一覧を見る