渡良瀬遊水地で急増するイノシシ、悩む地元

上嶋紀雄
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 栃木、茨城、群馬、埼玉の4県4市2町にまたがる渡良瀬遊水地で、イノシシの増加に歯止めがかからない。4県でつくる「渡良瀬遊水地連携捕獲協議会」の調査では、2023年度は834頭が確認され、22年度(488頭)の約1.7倍になった。協議会や4市2町は捕獲を進めているが、強い繁殖力に追いついていない状況だ。周辺自治体や住民は頭を悩ませている。

 栃木県の調査によると、約3300ヘクタールの遊水地でイノシシの出没が初めて確認されたのは09年度。19年度に県が実施したドローンによる調査では205頭を確認した。

 イノシシは周辺市町に出没し、農業被害も発生した。また、ニホンジカも目撃されたことから、農作物被害の防止や、水鳥の生息地として重要とされる「ラムサール条約湿地」に登録された遊水地の植物の保全に広域で対応しようと、4県が22年に協議会を発足させた。

 23年度はドローン調査で834頭を全域で確認。設置した25台のセンサーカメラ全てにも写っていた。

 遊水地は国指定の鳥獣保護区のため、イノシシの捕獲には国の許可が必要になる。協議会では出水期を除く11~3月の間に捕獲を進めてきた。年間20頭の捕獲目標を掲げ、ワイヤで足をくくる「くくりわな」と「箱わな」を設置。23年度は28頭を捕獲し、ほかに4市2町でも計112頭を捕獲したが、増加を食い止めることはできていない。

 協議会は24年度の目標捕獲数を現行の20頭から5倍の100頭に引き上げる。くくりわなを昨年度の50基から60基、箱わなを10基から12基に増やし、捕獲期間も80日間から90日間にする。4市2町の捕獲と合わせ、確認された生息数の約半分にあたる400頭の捕獲をめざす。栃木県は「地元自治体と連携して取り組んでいきたい」としている。

 一方、4市2町や地元の関係団体でつくる「渡良瀬遊水地保全・利活用協議会」は4月下旬、連携捕獲協議会にわなの増設などによる捕獲の推進を要望した。5月下旬の定例会議では、捕獲に取り組むワーキンググループ設置を決定。会長を務める大川秀子・栃木市長は「捕獲の方法も今まで通りではなく、違う方法も考えないといけない」と話した。

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 遊水地周辺の住民もイノシシ対策に悩んでいる。小山市の生井地区では、農作物の被害に加え、遊水地外の人家近くにも出没し、通学路を横切る姿も目撃されているという。

 地元の「渡良瀬遊水地関連地域活性化協議会」の会長を務める平田政吉さん(76)によると、遊水地内で3年前まで大豆を作っていたが、被害にあって全滅し、現在の麦畑も荒らされている状況だという。人家近くに出没するイノシシについて、平田さんは「夜は散歩できない」と嘆く。

 対策に悩む住民たちは独自に「鳥獣被害対策協議会」を設立。小山市に遊水地内外にわなを仕掛けて捕獲することなどを要望してきた。

 ただ、遊水地内の捕獲についてはハードルが高い。鳥獣保護区で、そもそも治水が目的の場所。環境省国土交通省の許可が必要になる。市によると、許可を取るには制約があるという。住民の一人は「国は規制を緩めてほしい」と訴える。

 連携捕獲協議会の捕獲についても、平田さんは疑問を投げかける。同協議会は県外の業者に委託してわなを設置しているが、平田さんは「わなの設置場所は我々が考えるところとは違う。えさのやり方もそう。あれでは捕れない。地元の方が詳しい。我々の声を聞いてほしい」と話す。

 旧・藤岡町(現・栃木市)の藤岡土地改良区でも、農作物の被害に頭を痛めてきた。理事長で市議の関口孫一郎さん(71)は「個体数が増えれば、外に出てくる。湿地の保全も大切だが、周辺の生活環境のことを考えてほしい」と話している。

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この記事を書いた人
上嶋紀雄
宇都宮総局|小山地区担当
専門・関心分野
地域の暮らし、スポーツ