ドイツの植民地小説に描かれぬ闇 ホロコーストの陰で忘れられた前史
イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃で犠牲者が日々増える中で、ドイツはイスラエル擁護の姿勢を固持する。ホロコーストを反省する「過去の克服」を進めてきたはずのドイツの歴史認識が問われている。現代ドイツ文学を研究してきた副島美由紀・小樽商科大名誉教授は、ドイツで流行する「ポストモダン探検文学」を切り口に、ドイツ社会が植民地主義の過去を忘却してきたことを指摘する。
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オリエンタリズムが復活?
――「ポストモダン探検文学」とは
西ドイツ時代の1970年代から現れたジャンルです。大航海時代以来、西洋人が極地やアフリカ、オセアニアなどに向かった探検を題材にした小説で、現在まで根強い売れ筋です。北極圏航路を探検したジョン・フランクリンを取り上げた「緩慢の発見」、数学者ガウスと探検家フンボルトが主人公の「世界の測量」などは有名で、邦訳もされました(それぞれ白水社、三修社から出版)。
探検家を完全無欠な偉人や英雄として扱うのではなく、人格的に難があったり、浮世離れした行動をしたりする人物として描き、一種の「脱神話化」をする特徴があります。単純な歴史小説とは違い、近代が作りあげた規範を「脱構築」しようとするポストモダンの系譜にあるものです。
一方で、19世紀的な冒険文学の復活とみることもできます。アジアやアフリカ、中東を舞台に、ドイツ語圏の探検家たちの冒険や、現地住民との交流、恋愛がエキゾチックに、そして無邪気に描かれる傾向があります。植民地主義を告発するような作品もありますが、冒険の方が描きやすく、知的なエンターテインメントとして好まれるのです。
後半では、ドイツの植民地主義の過去が「過去の克服」の影で忘れ去られていたことと、その問題点に話が及びます(ドイツの植民地については記事の末尾で説明しています)。
――21世紀の今、オリエンタリズムを思い起こさせるような文学がドイツで流行しているとは意外です
ドイツ文学は長らく、社会から影響を敏感に受けて発展してきました。東西再統一を果たし再び「大きな国」になった今、これまではめられていた制約を外して歴史を語り直したい、というドイツ社会の欲求を、文学がとらえていると見ることができます。
また、帝政期(1871~1…
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