名張の中さん、推理作家協会賞に 江戸川乱歩の生の軌跡に迫る本

小西孝司
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 名張生まれの推理作家、江戸川乱歩(1894~1965)に深く傾倒する三重県名張市の中相作(しょうさく)さん(71)の「江戸川乱歩年譜集成」(藍峯舎(らんぽうしゃ))が、第77回日本推理作家協会賞(評論・研究部門)を受賞した。15年がかりで乱歩の「生の軌跡」をたどった労作で、選考委員に高く評価された。

 名張出身の中さんは、子どものころから乱歩作品を愛読してきた。1995年から13年間、市立図書館に乱歩資料担当の嘱託職員として勤務。利用者が情報を探すための「レファレンスブック」として、文献データブック、執筆年譜、著書目録の3部作を編纂(へんさん)した。

 2018年には、乱歩が自伝「探偵小説四十年」をなぜ書いたのかなどの謎に迫った「乱歩謎解きクロニクル」を出し、第19回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)を受賞。中さん自身は19年に「なばりのたからもの」(名張ユネスコ協会)に選定された。

 今回の受賞作は「レファレンスブック」の完結編として、「書誌からはうかがえない乱歩その人の生の軌跡を加えることでレファレンスブックにいわば血が通うのではないか」と考えたという。08年に嘱託をやめた後から執筆に取りかかり、23年に刊行した632ページの大部。乱歩の自伝に入っていない回想文や自作解説、身辺雑記、書簡、対談、広告文などから自伝的要素のある500点以上を抜き取って時代順に配列。新たな乱歩の「自伝」を浮かび上がらせた。年譜は180ページ。作家や編集者、知人らの証言をちりばめた。

 選考委員は「乱歩についての第一級の資料」(今野敏さん)、「膨大な量の乱歩にまつわる文章を集め、年次に沿ってまとめた労力に脱帽」(湊かなえさん)、「この本に出合えてよかった、と心から思う1冊であり、改めて乱歩の魅力を感じる本」(柚月裕子さん)と高く評価した。

 中さんは受賞作の執筆を通じ、「探偵小説に身銭を切り、ほかの探偵作家のために力を注いだ乱歩の人間性や偉大さが、しみじみと身に迫ってきた」という。受賞を「肩の荷が下りた。乱歩のことでお世話になったすべての人々にお礼を申し上げます。もう『乱歩じまい』かな」と話している。2万4千円(税込み)の限定250部で販売されたが、すでに完売したという。

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