ワイマール共和国と大正デモクラシーの崩壊 「民主主義の危機」とは
米国で来年1月、2020年大統領選の結果を否定していたトランプ前大統領が再び政権に就きます。欧州では極右政党が勢力を伸ばしています。こうしたこともあり、一部で「民主主義の危機」を訴える声が出ています。日本やドイツの軍事史に詳しい防衛研究所の庄司潤一郎研究顧問は、戦前のドイツ・ワイマール共和国や、日本での大正デモクラシーの崩壊と比べると、今後の課題が見えてくると指摘します。
――トランプ政権の再登場や欧州での極右台頭をどうみていますか。
欧州も米国も民主主義を放棄したわけではありません。確かにトランプ氏は20年大統領選の結果を否定していますが、当選したバイデン氏が大統領に就任しました。トランプ氏も今回、大統領選で(ハリス氏に勝利して)当選しました。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も連邦議会で勢力を伸ばしています。どちらも、「自国(米国・ドイツ)第一主義」ですが、選挙を経て選ばれました。
ただ、ドイツでは注目すべき点もあります。ドイツは過去、小党が乱立した結果、ナチスの台頭を許しました。ナチスの再来を避けるためにつくられたのが、連邦選挙での「阻止条項(5%条項)」です。第2投票(政党別投票)で、有効投票の5%を獲得できなかった政党は議席を配分されません。したがって、ドイツでは戦後、極右政党が台頭しても州議会にとどまり、連邦議会では議席を獲得できませんでした。
これに対し、AfDは5%条項を超えて連邦議会で議席を獲得するまでになりました。AfDは保護主義や反グローバリズム、ウクライナへの支援反対などを唱えています。AfDの進出とともに、ドイツの連邦議会は小党分立になりつつあります。戦後長い間、社民党、キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、自由民主党の4大政党でしたが、1980年代以降、緑の党が進出しました。現在では、AfDや左翼党などが加わり八つの主要政党が連邦議会に議席を有しています。さらに、社民党のショルツ政権も今回、連立政権交渉に失敗しました。
日本でもかつては「55年体制」のもと自民党と日本社会党の二大政党制でしたが、現在では、自民党は過半数を割り10政党が衆議院に議席を有しています。
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ウクライナにとどまらず、パレスチナ情勢や台湾、北朝鮮、サイバー空間、地球規模の気候変動と世界各地で安全保障が揺れています。現場で何が起き、私たちの生活にどう影響するのか。のべ280人以上の国内外の識者へのインタビューを連載でお届けします。
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