「そろそろ限界だ」届かなかった父のSOS 障害者殺害で検証報告書

増田勇介 良永うめか
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 千葉県長生村で今年7月、障害がある次男を殺害したとして父親が起訴された事件を受けて、次男が入所待ちをしていた神奈川県立の障害者施設「中井やまゆり園」(神奈川県中井町)などの対応を県の検証チームがまとめた中間報告書が10日、公表された。「入所を家族が求めた際の機械的な対応が、家族を追い詰め、将来に希望を持てなくなった」と指摘した。

 報告によると、次男は多動性障害(注意欠如多動症)と診断されており、1998年から中井やまゆり園の一時利用を始め、短期入所を繰り返していた。

 2019年に父親から「そろそろ無理だ」「精神的に持たない」と話があり、20年には入所を申し込んだ。「テレビを4台ダメにした。外に出て行って警察に2回保護された。夜は寝ないのが一番つらい」などと説明をしていた。

 当時はコロナ禍で園は短期入所を中止していたが、疲弊した父母が手をあげてしまうとして、20年12月から月1回の短期入所を再開した。

 昨年4月には相談支援事業所を通じて父親から「そろそろ限界だ。入所できる施設を探してほしい」と打診があったものの、園は新規入所停止中で入所できなかった。

 今年2月にはグループホームに体験入居したものの、受け入れられなかった。

 園を利用したのは今年5月30日が最後。6月上旬に、小田原市から一家で転居したという。

 7月、父親は次男の首をコードで締めて殺害しようとしたとして殺人未遂容疑で逮捕され、その後殺人罪で起訴された。

「SOSと認識した機関はなかった」

 県は学識経験者や次男の障害福祉サービスを支給決定していた小田原市、相談支援事業所などとチームを設け、対応を検証していた。

 中間報告書では「在宅での支援に向けて支援機関が十分に連携していなかった」とし、「家族が追い詰められているという、SOSと認識すべきであったが、SOSと認識している機関はなく、連携会議を開催して対応を協議する、本人を保護するなどの緊急対応がなされず、認識が甘かった」と指摘した。

 この日の県議会では、検証を担当した吉田信雄・県立障害者施設支援改革担当課長は「(介護者が休息するための)レスパイト支援だけでは不十分だった。家族の高齢化や介護疲れなどで入所の必要性が高い方に施設が連携して果たす役割が不十分だったのではないか」と話した。

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この記事を書いた人
増田勇介
横浜総局
専門・関心分野
地方自治