中井やまゆり園、進まない改革 職員の6割「別の所属で働きたい」

増田勇介
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 利用者に対する複数の虐待事案が発覚した神奈川県立障害者施設「中井やまゆり園」(中井町)の改革が難航している。県は柔軟に予算や人員配置ができるように2026年度から独立行政法人に移行することをめざしているが、職員の約6割が園を離れることを希望しているからだ。

 10日の県議会で、8月に実施した全職員向けアンケートの結果が公表された。

 アンケートでは、独法移行後に園で働きたいか尋ねたところ、回答した122人のうち74人が「別の県の所属で働きたい」と答えた。園で働きたいのは「県職員の身分のまま」や「新法人の職員として」を合わせても24人だけだった。

 さらに、仕事で困っていることを尋ねると(複数回答)、「ハラスメント」が56人(45.9%)に及び、「組織体制」の77人(63.1%)に次いで多かった。

 県は園の支援のあり方を改善するため、障害福祉の専門家ら5人をアドバイザーとして招いているが、アドバイザーも不満の的になっているようだ。アンケートの自由記載では「(改革案の)アクションプランやアドバイザーへ意見が言えない雰囲気がある」「幹部職員やアドバイザーが思いやりや配慮に欠けた態度をとる」「会議などで強く叱責(しっせき)される」といった記述があった。

 県はハラスメントの有無については調査する方針だが、アドバイザーの言動について、「利用者の命に直結する場面で、食い止めるための厳しい言動と考えられる」とも説明した。

 ただ、こうした結果に複数の県議から「地方独立行政法人の準備を進めることは難しい」などと指摘が出た。

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 障害者への支援の現場で何が起きているのか。アドバイザーが朝日新聞の取材に応じた。

 複数のアドバイザーによると、利用者が食事や水分を十分とらずに衰弱し、「病院に行く必要がある」と指摘しても、「翌日の幹部会で決める」などと判断が先延ばしになる事例があったという。アドバイザーの大川貴志さんは「(職員に)命を預けるわけにはいかない。通院の判断もできないなら、我々は退場するしかない」と指摘したという。

 利用者が熱を出したとき、医師の処方箋が必要な解熱剤を職員の判断で服用させる運用も横行していた。アドバイザーが指摘しても改められなかったという。

 昨年10月には、60代の入所者女性をポータブルトイレに座らせたまま食事をさせていた事案も起きた。

 県は当初は職員が忙しく、治療に必要なてんかんの薬を飲ませるために食事をさせていたと発表していたが、実は職員は全員が出勤しており、てんかん治療とは関係ない薬だったという。

 こうした利用者の命や尊厳に関わる場面で、アドバイザーがきつい口調で伝えたこともあったという。大川氏は「医療の空白のなかで機能が低下している方も多い。目の前で命を落としていくことが見過ごせなかった」と話している。

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この記事を書いた人
増田勇介
横浜総局
専門・関心分野
地方自治