能登半島の先端、移住5年で被災 駆け抜けた日々「一員でありたい」
取材中には、泣かないことにしている。
どんなに胸の詰まる話を聞いても。どんなにあたたかい話に心が震えても。記者は、当事者ではないから。
それでも、その動画を目にしたとき、こみ上げてくるものをこらえるのに必死になった。撮影したこの人が、過ごしてきたこの日までの57日間の濃さを思った。
「馬場ちゃーん、ありがとー」
目にいっぱいの涙をためたおばあさんが、カメラにぐんぐん近づいてくる。
2月26日、能登半島の先端にある石川県珠洲市狼煙(のろし)町。元日の能登半島地震で甚大な被害を受け、県南部の旅館に2次避難していたお年寄りたちが、1カ月半ぶりに集落に帰ってきた。動画は、避難所となっていた集会所に残って待っていた人たちと、帰ってきた人たちの再会の瞬間を記録していた。
撮影したのは馬場千遥(ちはる)さん(33)。5年前に石川県珠洲市に移住し、あの瞬間も、この場所にいた。
【狼煙町の連載はこちら】避難所で始めた「復興会議」
能登半島の先端にある「狼煙」集落。地震で傷つき、まちの再生に向けて模索を続けた住民たちの1年を追いました。
元日の午後4時10分。
集会所であった集落の新年互礼会後の宴会中に、最初の地震が起きた。参加者たちは集会所の外に出た。
最後に馬場さんが外に出たとたん、とてつもない揺れが来た。
馬場さんは思わずしゃがみ込んだまま、ごろごろと地面を左右に転がった。集会所が、目の前で豆腐のように変形して揺れていた。
その後も大きな余震が続いた。真っ暗闇の中で、多くの住民たちが「道の駅 狼煙」の駐車場に車を並べ、車中泊した。
馬場さんは車の中で、フェイスブックに投稿した。
「珠洲にいますが、ひとまず…
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