ダム湖に消えたシングルファーザーのSOS 「娘預かって」の意味は

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仙道洸
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 記録的な暑さとなった今年の夏、その日は「大暑」だった。

 セミはもう鳴き始めていた。

 奈良県南部の下北山村。山間のダム湖にかかる橋の下に、2人の遺体があった。

 52歳の父親、5歳の娘。

 近くには、父親が借りたレンタカー。大阪市内の自宅からは、80キロ近く離れていた。

 ひとり親だった。前日の電話はSOSだったのだろうか。

 児童相談所や警察への取材をもとに、経緯をたどる。

電話がつながらなくなっていく

 「子どもを預かってほしい」

 大阪市の中央こども相談センター(児相)のホットラインに、父親が連絡してきたのは7月21日の昼過ぎだった。「死にたい」とも口にしていた。

 センターは、一時保護の調整を担う職員がいる。

 「担当職員から電話をかけ直します」。いったん電話をおいた。

 約1時間後。担当職員が電話を折り返す。

 「住所と年齢は?」「子どもの健康状態は?」などと尋ねると、父親は「もういいです」。通話が途切れた。この電話でも「死にたい」と口にした。

 話の内容から、この時はまだ自宅にいる様子だった。

 センターは、もう一度、時間を置く。まずは落ち着いてもらう必要があると判断した。

 再び1時間後に電話をかけた。

 すると、父親は「レンタカーで外に出ている」。行き先を尋ねると、「人がいないところ、誰もいないところ」。

 職員は「その流れでセンターに来てください。お預かりの話をしましょう」。また電話は切れた。

 このときはすぐに電話をかけ直す。再び来所を促したが、通話は途切れた。

レンタカーに残されたリュックと父の思い

 センターは緊急性が高いと判断した。通報を受けた大阪府警も父子を捜し始めた。

 センターはその後も10回ほ…

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