医師の残業代が支払えない 公立病院トップが悲鳴をあげる地方の事情

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中島嘉克
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 残業代未払いで労働基準監督署から是正勧告を受けたにもかかわらず、宮城県大崎市の大崎市民病院は一時「支払えない」とした。その後、一転して分割で支払うことになったが、公立病院がなぜ法に抵触するような方針を採ったのか。病院トップの病院事業管理者、並木健二医師が朝日新聞のインタビューに応じ、悲痛な声を上げた。

違反判明のきっかけは「宿日直許可」の申請

 大崎市民病院は時間外勤務手当を算出する際、基礎賃金に必要な手当を含めなかったとして、2023年2月、古川労働基準監督署から是正勧告を受けた。

 病院が積算すると、未払いとされた金額は約10.5億円に上った。病院はこのうち約2.3億円を支給したものの、残る8億円超はまだ支給できていない。未支給の対象者は退職者を含め1300人を超え、病院は今後、3年間で全額を分割支給する方針だ。

 並木氏によると、病院が22年4月、医師を夜間や休日に待機させる「宿日直許可」を労基署に申請した際、違反が判明した。許可を得れば、宿日直の時間は労働時間としてカウントしなくて済む。その時に労基署から時間外勤務手当の算出方法について尋ねられたことがきっかけだったという。

 大崎市民病院は国家公務員の給与体系を参考に給与体系を整備していた。時間外勤務手当の算出も同様で、国家公務員と同じように、基礎賃金に「初任給調整手当」など必要な手当を含めていなかったという。

 初任給調整手当は、若手の医師に給与を手厚く支給する手当。医師確保のため、昔から地方の病院の多くで支給されてきたものだ。

 ただ、労基署は「基礎賃金から除外できるものは法律で決まっている」と指摘。公立病院の医師や看護師、職員は地方公務員にあたり、労基署は「労働基準法が適用される地方公務員と、適用されない国家公務員を一緒にされては困る」とした。病院は23年1月、労基署からの問い合わせに「4月から給与体系を見直す」と答えたが、労基署は2月に是正勧告を出した。

物価高などで5億円の赤字に転落

 労基署の勧告は法にのっとったものだが、地方の拠点病院にとって、非常に厳しい現実を突きつけられた形となった。

 大崎市民病院は仙台市中心部…

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この記事を書いた人
中島嘉克
仙台総局
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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2024年12月27日11時20分 投稿
    【視点】

    規制の簡素化が重要ではないか。この記事は地域医療確保、働き方、使用者の労務管理、監督行政の在り方など色々なことを考えさせられる。今回は、監督行政についてコメントしたい。規制の在り方も人口減少社会・生産年齢人口急減時代に入っていく中で、変えて

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