40歳を前に「がんばれない」 中年の危機に医師はどう向き合ったか

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千葉恵理子
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 中年期に陥る心理的危機「ミドルエイジ・クライシス(ミッドライフ・クライシス)」。人生の後半に差しかかるこの時期は肉体的な変化だけでなく、不安や葛藤など心の不調に見舞われることもある。腫瘍(しゅよう)精神科医として約4千人のがん患者と対話してきた清水研さん(53)も、40歳を前にクライシスを経験した。清水さんにその向き合い方を聞いた。

 なぜ中年期に心理的危機が訪れるのだろうか。ユング心理学では、中年期は人生の正午にあたる。成長を感じられる青年期の午前から、老いや死に向かう午後に向かうときに危機を迎え、その後に価値観が大きく変わるという。

 「青年期は体力や気力が充実して成長や発展を実感でき、がんばれば成功して幸せになれると信じている。しかし、中年期に入ると、体力が衰えてきてがんばれない。組織や社会での立ち位置、限界も見え、努力の先に輝かしい未来があるとは限らない現実も知る。がんばれなくなった自分自身への信頼も失う。今までのやり方に行き詰まりを感じるのです」

 私たちは普段は意識しないが、心の中に「want(~したい)」と「must(~しなければならない)」の「相反する自分」が存在するという。

 wantは「泣きたい」「おなかがすいた」といった感情や感性が優位な自分。mustは親のしつけや学校教育、社会規範などから形作られた「人に迷惑をかけてはいけない」「結婚しなければいけない」といった理性や論理が優位な自分。大事なのはそのバランスだ。

 mustが強すぎると、自己肯定感の低さや承認欲求の強さにもつながる。「強いmustに縛られてきた人が、それに従うエネルギーを失い、心が悲鳴を上げたとき、中年の危機が起こります。今までの生き方が苦しくなり、手放す必要に迫られるのです」

 清水さん自身が「がんばれない」と自覚するようになったのは37、38歳のころ。当時勤めていた国立がん研究センターで、チームのマネジメントを任されていた。

 患者を診るだけでなく、研究…

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この記事を書いた人
千葉恵理子
コンテンツ編成本部|紙面企画チーム
専門・関心分野
文化(美術など)、働き方、生き方