激動、英一蝶の描いた浮き世 没後300年、過去最大規模の回顧展

[PR]

 人気絵師の座から一転、島流しの憂き目に。還暦間近で奇跡的に江戸へ戻り、さらなる深化を遂げていく。波瀾(はらん)万丈の人生を歩んだ江戸時代の絵師、英一蝶(はなぶさいっちょう)(1652~1724)。東京・六本木サントリー美術館で18日に始まる「没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―」展(同美術館、朝日新聞社など主催)は、国内外の約90件を集めた、過去最大規模の回顧展だ。

 ■幅広いジャンル・斬新な視点、洒脱な作風光る

 一蝶は、元禄年間(1688~1704)前後に江戸を中心に活躍した。狩野安信のもとで伝統的な絵画技法と知識を身につけつつ、その枠を超えた独自の絵画世界を確立。洒脱(しゃだつ)で洗練された風俗画で人気を博した。

 今展では、三つに分けた章構成で、その画業と人生に迫る。

 第1章は、「多賀朝湖(たがちょうこ)」などと名乗り、風俗画家として名を上げるまでをたどる。

 狩野派で学んだ技術と知識の幅広さを示す作品の一つが、全三十六図の「雑画帖(ざつがじょう)」だ。山水、花鳥、人物など多様な画題を扱い、技法も作風も幅広い。「一蝶がさまざまなレパートリーを持っていたことがわかる」と、サントリー美術館の池田芙美・主任学芸員は話す。

 一方、真骨頂とも言えるのが、日常の一瞬を題材にしたユーモラスな風俗画だ。「投扇図(とうせんず)」では、鳥居の隙間めがけて扇を投げる人たちがダイナミックに描かれ、上空の扇を指さしてのけ反る人も。「四条河原納涼図(しじょうがわらのうりょうず)」では、川床でくつろぐ人々の中に、酒がこぼれないよう盃(さかずき)を高く掲げつつ水面をのぞき込む男の姿がさらりと描かれている。

 「スナップショットを撮るように、目の前のものをいきいきと切り取っている」と池田さん。松尾芭蕉に学び、俳諧もたしなんだ。そこで培った視点が絵にも生かされていると、池田さんは指摘する。

 画業の充実を迎えていた40代、思わぬ災難が降りかかる。「生類憐(あわ)れみの令」を皮肉った流言に関わった疑いで捕らえられ、数え47歳で三宅島へ島流しとなってしまう。第2章では、配流中に描かれた「島一蝶」と呼ばれる作品群を紹介する。

 島にいながらも、江戸の知人からの発注を受けて華やかな江戸の風俗を描いていた。重要文化財の「布晒舞図(ぬのさらしまいず)」は、一蝶の最高傑作とも言われる作品だ。長い布を巧みに操って舞う舞手(まいて)と、高らかに音楽を奏でる囃子方(はやしかた)。翻る布や人物の造形は躍動感にあふれる一方、布をつまむ指先などに繊細さが光る。

 「吉原風俗図巻」には、一蝶が出入りしていた吉原の風俗が描かれている。うそ泣きでなじみ客を引き留める遊女が描かれるなど、ユーモラスな視点がここでも発揮されている。

 三宅島や近隣の島民のために描いた作品も。御蔵島(みくらじま)の稲根神社に伝わる絵馬(「神馬図額(しんめずがく)」「大森彦七図額(おおもりひこしちずがく)」)は今回、島外で初めて公開される。

 1709年、将軍代替わりの恩赦によって、一蝶は江戸に戻ることができた。すでに数え年58歳。しかしそこから、いっそう旺盛に制作に取り組んでいく。第3章は、江戸帰還後の画業に焦点を当てる。

 この時期の代表作の一つが、「雨宿り図屏風(びょうぶ)」だ。通り雨に遭った人々が、屋敷の門の下で身を寄せ合う。恨めしそうに空を見上げる人もいれば、退屈して柱にのぼって遊ぶ子どもも。

 画題も構成もほぼ同じ屏風を、メトロポリタン美術館(米国)と東京国立博物館がそれぞれ所蔵している。今展では二つの「雨宿り図屏風」が初めてそろう(東京国立博物館蔵の屏風は10月14日まで展示)。

 晩年は、仏画や花鳥画風景画など古典的な画題へと回帰していった。「釈迦十六善神図(しゃかじゅうろくぜんじんず)」は今展の準備を進めるなかで新たに見つかった作品で、今回初めて展示される。

 一蝶について池田さんは「さらさらと自由に描いているように見えるが、ベースとなる絵画技術がしっかりとしている。多岐にわたるジャンルを描く力があり、知識も豊富」と評する。「彼の描いた人々の姿は、今の自分たちにも通じるところがある。ぜひ会場で、作品の力を間近に感じてほしい」(松本紗知)

 ■あすから東京・六本木のサントリー美術館

 ◇18日[水]~11月10日[日]、東京・六本木のサントリー美術館(03・3479・8600)。午前10時~午後6時(金曜と11月9日[土]は午後8時まで。9月27日[金]、28日[土]は午後10時まで。入館は閉館の30分前まで)。11月5日を除く火曜休館。会期中、展示替えがあります

 ◇一般1700円、大学・高校生1千円、中学生以下無料

 主催 サントリー美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら