全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載二周波降水レーダ(DPR)の降水強度推定アルゴリズムを開発した。DPRは、Ku帯レーダ(KuPR; 13.6GHz)およびKa帯レーダ(KaPR; 35.5GHz)から構成される。KuPRアルゴリズムは、熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダ(PR)のアルゴリズムと同様であるが、降水強度Rと質量重み付き平均粒径Dmの関係(R-Dm関係)を、減衰係数kと有効レーダ反射因子Zeの関係(k-Ze関係)の代わりに使用している。R-Dm関係は、KaPRアルゴリズムおよび二周波アルゴリズムにも使用できる。一周波アルゴリズムおよび二周波アルゴリズムともに、R-Dm関係の修正係数εに暫定値を仮定した前進法によりプロファイルを推定し、その結果を評価して最適なεを選択する。二周波アルゴリズムの利点は、εの決定のために二周波表面参照法およびZfKa法(KaPRの減衰補正反射強度Zfを用いる手法)を用いること、およびKuPRまたはKaPRの観測を選択的に利用できることである。また本論文では、R-Dm関係と散乱テーブルの導出およびビーム内非一様性補正手法を詳細に説明している。さらに、アルゴリズムの出力結果を統計的に解析し、各アルゴリズムの特性を示している。
成層圏準2年周期振動(QBO)が熱帯・亜熱帯の上部対流圏・下部成層圏(UTLS)に与える影響に関する観測的研究の歴史をレビューする。観測解析能力の段階に応じて、その展開を順次説明する。QBOの西風(W)と東風(E)の位相は下部成層圏の帯状風によって定義される。1960~1978年の間には、ラジオゾンデ観測データでUTLSのQBO変調が示され、QBO W位相時に熱帯では暖かい偏差、南緯30度と北緯30度付近では冷たい偏差であることが明らかにされた。このことは、熱帯と亜熱帯の間のコヒーレントで逆位相的な応答を予言していたQBOに伴う平均子午面循環(MMC)の理論と一致していた。1978~1994 年の間には、人工衛星によるエアロゾルと気温の観測により、QBO MMCの存在が確認された。1994年~2001年の間には、全球データセットにより、対流圏界面温度の帯状平均QBO変動の解析が可能となった。そして、2001年には、1958~2000年の42年間の全球NCEP再解析により、圏界面温度、気圧、帯状風のQBO W-E位相差の季節的・地理的な違いが明らかにされた。今では、38年間のMERRA-2データと40年間のERA-Interimデータによる最新の更新により、季節的・地理的変動をより完全に把握することができる。
熱帯のQBO変動幅は、圏界面の気温は約0.5~2K、高度は約100~300m、気圧は約1~3hPaであり、QBO E位相時に、特に北半球の冬から春にかけて、寒く、高くなる。QBO温度シグナルは、深い対流が多い地域で大きくなる傾向がある。南半球亜熱帯のQBOシグナルは南半球の冬に強まる。QBO W位相時には、亜熱帯の偏西風ジェットが発達する一方でWalker循環は弱くなり、特に北半球の春には弱くなる。ERA-Interimのデータを用いて、気温、帯状風、MMCの帯状平均QBO偏差の新しい気候学を提示する。QBO E位相はUTLSでの静的安定度と帯状風シアーの両方を低下させることで対流を促進させる可能性がある。
This study investigates the synoptic-scale flows associated with extreme rainfall systems over the Asian–Australian monsoon region (90–160°E and 12°S–27°N). On the basis of the statistics of the 17-year Precipitation Radar observations from Tropical Rainfall Measurement Mission, a total of 916 extreme systems, with both the horizontal size and maximum rainfall intensity exceeding the 99.9th percentiles of the tropical rainfall systems, are identified over this region. The synoptic wind pattern and rainfall distribution surrounding each system are classified into four major types: vortex, coastal, coastal with vortex, and none of above, with each accounting for 44, 29, 7, and 20 %, respectively. The vortex type occurs mainly over the off-equatorial areas in boreal summer. The coast-related types show significant seasonal variations in their occurrence, with high frequency in the Bay of Bengal in boreal summer and on the west side of Borneo and Sumatra in boreal winter. The none-of-the-above type occurs mostly over the open ocean and in boreal winter; these events are mainly associated with the cold surge events. The environment analysis shows that coast-related extremes in the warm season are found within the areas where high total water vapor and low-level vertical wind shear occur frequently. Despite the different synoptic environments, these extremes show a similar internal structure, with broad stratiform and wide convective core (WCC) rain. Furthermore, the maximum rain rate is located mostly over the convective area, near the convective–stratiform boundary in the system. Our results highlight the critical role of the strength and direction of synoptic flows in the generation of extreme rainfall systems near coastal areas. With the enhancement of the low-level vertical wind shear and moisture by the synoptic flow, the coastal convection triggered diurnally has a higher chance to organize into mesoscale convective systems and hence a higher probability to produce extreme rainfall.
黒色炭素(BC)等のエアロゾル大気中輸送は、太陽放射の吸収/散乱、降水や雪氷/海氷被覆に影響し、特に北極のような人間活動が活発ではない場所で変化をもたらす。本研究では、9月の発達した低気圧に伴うシベリアから北極域へのBC輸送シミュレーションの解像度依存性を、非静力学正20面体大気モデル(NICAM)-全球エアロゾル輸送モデル(SPRINTARS)の高分解能(約56 km)および低分解能(約220km)の計算により評価した。本研究で着目した低気圧は大きな水平スケール(約2000 km)を持ち、東アジアからシベリアを経て北極域に至る輸送経路上に、発達した中心気圧低下を配していた。近年で最も発達した低気圧イベントの事例解析では、日本の海洋地球研究船「みらい」で2016年9月26~27日に観測されたベーリング海の高濃度BC域が、2016年9月27~28日にかけ低気圧中心と寒冷前線の後面、および温暖前線の前面の上昇流域においてフィラメント状の構造で北極域へ移動した。2015~2018年の9月に発達した低気圧イベントの合成図解析では、高濃度BC域は低気圧中心の東側に位置し、これは低気圧中心と北側/東側域の上昇流と関連していることが示された。上昇流最大となる領域は水平スケールが小さいため、水平解像度約220kmの実験では十分に再現されなかった。本研究では、発達した低気圧により9月における北極域へのBC輸送が増大することを確認した。輸送モデルの結果は、発達した低気圧による北極域への物質輸送が、高分解能(約56 km)の計算では低分解能(約220km)の計算よりも増大することを示した。
メタン(CH4)は主要な温室効果気体の一つであり、対流圏および成層圏における化学過程にも重要な役割を果たしている。気候変動および大気汚染に関するCH4の影響は非常に大きいが、過去30年間のCH4濃度増加率や経年変動の要因については、未だ科学的な確証が得られていない。本研究は、十分に検証された化学輸送モデルを用いて、1988年から2016年の期間を対象に大気中CH4濃度をシミュレートし、逆解析によって地域別CH4排出量を推定した。まず、標準実験としてOHラジカルの季節変動のみを考慮し、大気中CH4濃度の観測データを用いた逆解法モデル、排出インベントリ、湿地モデル、およびδ13C-CH4のボックスモデルを用いた解析を行ったところ、1988年以降におけるヨーロッパとロシアでのCH4排出量の減少が示された。特に、石油・天然ガス採掘と畜産由来の排出量の減少が1990年代のCH4増加率の減少に寄与していることが明らかとなった。その後、2000年代初頭には大気中CH4濃度が準定常状態になった。 2007年からはCH4濃度は再び増加に転じたが、これは主に中国の炭鉱からの排出量の増加と熱帯域での畜産の拡大によるものと推定された。OHラジカルの年々変動を考慮した感度実験を行ったところ、逆解析による中高緯度域からのCH4排出推定量はOHラジカルの年々変動には影響されないことが示された。さらに,我々は全球的なCH4排出量が低緯度側へシフトしたことと熱帯域でのOHラジカルによるCH4消失の増加が相殺したことによって、南半球熱帯域と北半球高緯度域の間のCH4濃度の勾配は1988-2016年の間にわたってほとんど変化していなかったことを明らかにした。このような排出地域の南北方向のシフトは、衛星によるCH4カラム観測の全球分布からも確認された。今回の解析期間には、北極域を含めて地球温暖化によるCH4排出量の増加は確認できなかった。これらの解析結果は、気候変動の緩和へ向けた効果的な排出削減策を行う上で重要な排出部門を特定することに貢献できると思われる。
2016年8月下旬に日本の南海上の対流圏下層で発達した、大規模な低気圧を伴うモンスーントラフの予測可能性を調べた。このモンスーントラフはアジアジェットの蛇行、及びそれに伴う日本の東海上でのロスビー波の砕波と関連する上層での高渦位大気の南西方向への侵入によって強化されたことが分かった。気象庁現業1か月アンサンブル予報は、予測初期1週間においてロスビー波の砕波の強度を過小に予測し、モンスーントラフの強化を予測できなかった。アンサンブル特異ベクトル法に基づく簡易予報感度解析の結果、ベーリング海やアジアジェット入口付近にあった初期摂動は、効率的に成長しながら日本の南海上に向かって伝播し、モンスーントラフを強化する摂動の最大化に寄与しうることが分かった。日本の南海上に向かって伝播する摂動の時間発展は、予測期間におけるアンサンブルスプレッドの時間発展と対応していた。簡易予報感度解析より得られた初期摂動を与えた再予報実験を行った結果、摂動を与えた実験では、摂動を与えなかった実験と比べて日本の南海上でのモンスーントラフの強化がより明瞭となり、簡易予報感度解析の結果と整合していた。これらの結果は、ロスビー波の砕波及びアジアジェット入口付近における初期摂動が、2016年8月後半に強化したモンスーントラフの予測可能性に大きく寄与したことを示している。
停滞性の線状降水帯とはメソ対流系の1つのタイプで、日本の暖候期における典型的な豪雨をもたらす気象システムである。西日本の近畿地方はこの線状降水帯が発生しやすい地域の一つとして知られているが、その形成プロセスの複雑さのため、この領域のそれらの形成メカニズムは十分にあきらかにされていない。本研究では、観測データと高解像度数値実験を用いて、2015年9月1日に発生した線状降水帯を調べた。また、地形効果や初期値時間に関する感度実験も行った。
観測データから、線状降水帯の期間、下層は非常に湿潤であることが示された。線状降水帯の形成期間には、近畿地方の中層は南西風が卓越していた。また、線状降水帯の形成には寒冷前線やメソスケール低気圧が伴っていなかった。これらは本事例の線状降水帯の形成には必要条件ではないことが示された。
数値シミュレーションを用いた再現実験の結果、紀伊水道から流入する温暖湿潤な南南西風と西風の下層収束によって線状降水帯が形成されていることが分かった。淡路島の北で新しい対流セルが発生し、そのセルが中層の南西風によって北東方向に移動した。このセル形成プロセスが繰り返されることで線状降水帯が形成された。線状降水帯の形成地域の地形効果についての感度実験の結果、本事例の線状降水帯の形成には地形が重要でないことが示された。地形は線状降水帯の位置を変更し得る。
本研究では全球降水観測計画主衛星(GPM)に搭載された二周波降水レーダー(DPR)を利用して雹の三次元分布を全球規模で検出する手法を提案した。雹の検出にはKu帯におけるレーダー反射因子(ZKu)に加え、Ku帯とKa帯のレーダー反射因子の比率(DFR)、そして再解析データから得られる気温分布を利用した。検証には地上レーダーの粒子種判別プロダクトを利用した。本研究では、雹粒子が雨との衝突によって急速に成長する事に着目し、二粒子衝突モデルによって雹の成長を特徴づけられると仮定した。ここで、本研究で取り扱う雹はKu帯とKa帯の散乱特性に基づいて定義されており、一般的に定義される雹の他に高密度の霰や小さい凍結雨滴を含んでいる事が考えられる。
まず初めに、降雹の一事例を基にZKuとDFRの散布図の特徴を抽出したところ、二粒子衝突モデルに則った成長曲線は雹の分布をよく捉えられることが分かった。気温に依存して雹の密度が変化する事から、本研究では五つの温度帯で雹を検出するためのZKuとDFRの閾値を定義した。この閾値を用いて地上レーダーとGPM-DPRがマッチングする74の雹事例を抽出し、雹の検出精度を検証した。この検証を通じて、本研究では雹の誤検出を低減する融解雪除去フィルター及び雨除去フィルターを提案した。これら雹閾値と誤検出除去フィルターを準全球観測データに適用したところ、雹は陸上と海上の収束帯に広く存在することが分かった。特に海洋上の雹は凍結高度付近に薄く(厚さ1500m以下)広く存在しており、その存在は従来の地上レーダー網では見逃されていたことが示唆された。最後に、凍結高度付近の薄い雹層を除去するフィルターを追加したところ、特に陸上の雹を伴う深い対流を選択的に捉えられた。
気象庁によってアーカイブされた1880年代からの日本の地表気象データを水蒸気と温度の長期トレンドと長期変動に焦点を当てて解析した。ほとんどの地点において、年平均気温のトレンドは統計的に有意な1.0~2.5℃ century-1の昇温を示した。年平均相対湿度のトレンドは有意に-2~-12% century-1の減少であり、季節変動は小さかった。一方、年平均混合比のトレンドは気温や相対湿度のトレンドとは異なった空間パターンを示し、3つのタイプに分かれていた:有意な正、有意な負、トレンドなし。有意に負の-0.2~-0.3g kg-1 century-1のトレンド領域は本州の太平洋側にあり、中部東北から四国を通り東部九州に達している。有意に正の0.2~0.4g kg-1 century-1のトレンド領域は北海道、西日本の日本海側、西部九州、沖縄に分布している。これらの空間パターンは、冬季の離島を除いて、他の季節でも同様である。経験直交関数(EOF)解析の結果、年平均の気温と相対湿度のトレンドは空間的にほぼ一様かつ持続的である昇温と乾燥を表す気温と相対湿度のそれぞれのEOF-1で説明可能であった。これに対し、年平均混合比のトレンドはEOF-2とほぼ一致していた。ただし、EOF-2の寄与14%はEOF-1の49%よりかなり小さい。1960年から2018年までの近年の期間における混合比と気温のトレンドは1880年代からのより長期間のトレンドと大きく異なっていた。年平均混合比のトレンドは平均で0.0g kg-1 century-1から0.5g kg-1 century-1へと増加し、年平均気温のトレンドは1.5℃ century-1から2.5℃ century-1へと増加していた。
The theory of extreme precipitation has matured over the last decade and stipulates that the intensity of the extreme precipitation is balanced with the surface humidity. The changes in surface humidity can further be approximated by the changes in surface temperature. The analytically derived scaling coefficient based on the Clausius–Clapeyron derivative is ∼ 6 % K−1 in the tropics. While frequently confronted with observations over land, the theory has so far only been marginally evaluated against precipitation data over the ocean. Using an ensemble of satellite-based precipitation products and a suite of satellite-based sea-surface temperature (SST) analyses at 1°-1day resolution, extreme scaling is investigated for the tropical ocean (30°S–30°N). The focus is on the robust features common to all precipitation and SST products. It is shown in this study that microwave constellation-based precipitation products are characterized by a very robust positive scaling over the 300–302.5-K range of 2-day-lagged SST. This SST range corresponds to roughly 60 % of the amount of tropical precipitation. The ensemble mean scaling varies between 5.67 ± 0.89 % K−1 and 6.33 ± 0.81 % K−1 depending on the considered period and is found to be very close to the theoretical expectation. The robustness of the results confirms the suitability of the current generation of constellation-based precipitation products for extreme precipitation analysis. Our result further confirms the extreme theory for the entire tropical ocean. Yet, the significant differences in the magnitude of the extreme intensity of the products require dedicated validation efforts.
平衡気候感度(ECS)は、気候モデルシミュレーションにおいてCO2の2倍または4倍増による全球平均地表気温の変化として定義される。この指標は気候予測の不確実性を示すのに用いられ、したがって、モデルチェンジのECSへの影響は気候モデル開発コミュニティにとって大きな興味対象である。本論文では、ECS、気候強制、および、フィードバックに対するモデルチェンジの影響を一つの図で示す、新たなグラフ手法を提案する。それはグレゴリーの線形回帰法に基づいている。この可視化手法を用いれば、(a)モデルチェンジや新モデル過程導入が地球温暖化を増幅させるか、減衰させるか、影響しないか、を定量化し、(b)ECS、気候強制、および、フィードバックが何%変化するか、を見積り、そして、(c)影響評価の不確実性の程度を定量化できる。ここでは、相互作用する大気化学過程を入れるか入れないかに関する気候感度実験を実例として、この手法の有効性を実証する。同じ実験(例えば、相互作用する大気化学過程か、定められた値の化学成分量を使うか、の比較実験)に対して、複数のモデルの応答を同時に評価するという複数モデル評価において、この手法は有効であり、モデルの相互比較と結果の理解が容易になる。また、第五次結合モデル相互比較プロジェクトのような多数モデル比較の枠組みで、多数モデル平均(または、ある1つのベンチマーク・モデル)に対して各モデルのECS、気候強制、および、フィードバックのばらつき度合いを調べることが、この手法により如何に容易になるかを例示する。さらに、一つのモデルを用いた多数アンサンブルシミュレーションにおいて、個々のアンサンブル・メンバーのばらつきを調べるのにもこの手法が有用である。
本研究では、ユーラシアパターン―ユーラシア北部において冬季に卓越するテレコネクションパターン―に関連する惑星波の変調を、JRA-55を使用した合成図分析により解析し、波―平均流相互作用を含むユーラシアパターンの力学的メカニズムを明らかにする。
平年偏差の点からは、ユーラシアパターンは、北ヨーロッパ、中西部シベリア、および日本に作用中心を持つ、等価順圧な鉛直構造をした定常ロスビー波型のテレコネクションとして知られている。一方、帯状平均からのずれの観点では、ユーラシアパターンは、東アジアの冬季モンスーンに関連する惑星波の活動度を変調する。
強化された東アジア冬季モンスーンに対応するユーラシアパターンの正位相では、対流圏のユーラシア中部から北太平洋において東方・上方に伝播する惑星波が平年より強まる。この惑星波の強化には、東アジアにおける帯状平均から擾乱への傾圧エネルギー変換が寄与する。強化され東方・上方に伝播した惑星波は、上部対流圏で収束し、それにより中高緯度の直接循環偏差と、中緯度下部対流圏への寒気流出を引き起こす。これらの結果は、ユーラシアパターンは主に惑星波の活動に関係する全球的な力学モードの1つであることを示す。
2016年8月後半に、ユーラシア大陸上でのロスビー波束伝播及びそれに伴う日本の東海上における高気圧性のロスビー波の砕波に伴って、モンスーントラフが日本の南海上で強化した。本研究では、このモンスーントラフ強化の予測可能性を、大気大循環モデルを用いた緩和予報実験の手法により評価した。緩和予報実験では、日本の東海上の砕波域、ユーラシア大陸上の波束伝播域、及び両領域の計3つの領域における対流圏上層のモデル予測値を再解析値にナッジングした。モンスーントラフの強化は、気象庁現業1か月アンサンブル予報では予測されなかったが、緩和予報実験ではその再現性が向上した。また、ナッジングを行わない予報実験結果との比較より、緩和予報実験ではユーラシア大陸上での波束伝播の強化や日本の東海上での砕波の強化が再現され、対流圏上層でのロスビー波の増幅が高渦位大気の南西方向すなわち日本の南東海上への侵入を促進することにより、モンスーントラフ強化の再現性が向上することが分かった。さらに、緩和予報実験の結果より、主に日本の東海上の砕波域及びユーラシア大陸上の波束伝播域における予報誤差の改善が、モンスーントラフ強化の予測可能性を向上させることが示された。一方、これら2つの領域が予測可能性向上をもたらす相対的な寄与率は、先行研究においてアンサンブル予報を用いた簡易予報感度解析から得られた値と整合的であった。
気象庁137地点の2日積算降水量を使い,2014―2019年寒候期における多降水事例を選出した。全球降水観測(GPM)主衛星に搭載された二周波降水レーダー(DPR)のプロダクツおよびヨーロッパ中期予報センター再解析データを使用した流跡線解析により、閉塞過程の温帯低気圧構造が多降水を引き起こす仕組みを解析した。多降水についての上位の事例のほとんどは温帯低気圧により発生し、その多くが成熟段階であった。上位50事例の中から、3つの南岸低気圧を抽出し、メソスケールの降水系と気流系の関係を集中的に診断した。多降水が発生した観測地点における時間降水量変化は、基本的にウォームコンベアーベルト(WCB)、コールドコンベアーベルト(CCB)、ドライイントルージョン(DI)の組み合わせの影響を受けていた。低気圧中心の東側に広がる層状降水域はCCB上の下層WCBと上層WCBから構成され、低気圧中心付近の対流性降水域はWCB上に上層からのDIを伴い、線状降水帯の形成とともに地上で強い降水強度をもたらした。対流性の降水活動は、停滞性の層状降水域上空に上層WCBとして湿潤な大気を移流させる働きを担った。さらに、DPRプロダクツは、低気圧中心の後面に延びる雲域(クラウドヘッド)での背の高い層状降水、中層(地上付近)での潜熱開放(吸収)、及び低気圧の発達を可能にするCCBに沿った渦位増加を確認した。
A case study of the occurrence of polar stratospheric clouds (PSCs) on February 13th, 2017, in northern Sweden is reported in this paper. For the first time, a quasistationary edge of a bright and extended PSC layer (∼ 600-km long) on the eastern side of the Scandinavian mountain range was photographed and registered using lidar observations. Both lidar measurements and model simulations demonstrated that atmospheric conditions were fairly unchanged for several hours during the presence of the PSC. Strong winds across the Scandinavian mountain range were responsible for triggering the formation of mountain lee waves in the Kiruna area, which induced the formation of the quasistationary long and straight edge of the PSCs.
地殻変動・地震研究が主目的のインドネシア・スマトラ島のGPS(全球測位)網データを用い、経年変動が強くなかった年の北半球夏季の可降水量(PWV)季節内変動について調べる。 殆どの研究が他の気象データを援用してGPS信号遅延情報からPWVを求めているのに対して、本研究では気象データを用いないでPWV変動を表すものとして、通常の測地精度解析過程で推定される天頂湿潤遅延量(ZWD)時系列を用いる。ZWD時空間場を回転EOF(経験的直交関数)解析し,最も主要な2成分の仕組を,時間差がある場合とない場合の線形回帰を用いて調べる。その結果、2008、 2016、 2017年夏季毎日のZWDの季節内変動は南アジア夏季モンスーンに支配され、さらに南半球中緯度ロスビー波に伴う乾いた空気の侵入に影響されており、南アジアモンスーン強化と乾いた空気の侵入の両方が、北半球夏季のスマトラ島の乾燥をもたらす。また、南アジアと西部北太平洋の両モンスーンの季節内スケールの関係も示唆される。すなわち南アジアモンスーンが強いとき、東部インド洋上の大気に水蒸気が供給され、これが西部北太平洋モンスーンにも注入される。また、南部海大陸上のPWVが南半球中緯度東進ロスビー波の活動に伴って変調される熱帯-温帯テレコネクションも確認できる。これらの事例は、大気中の水蒸気の季節内変動を支配する諸過程に関して、各地の連続運用GPS(cGPS)網が有用であることを実証するものである。
This study examines the role of boundary layer dynamics in tropical cyclone (TC) intensification using numerical simulations. The hypothesis is that although surface friction has a negative effect on TC intensification due to frictional dissipation (direct effect), it contributes positively to TC intensification by determining the amplitude and radial location of eyewall updrafts/convection (indirect effect). Results from a boundary layer model indicate that TCs with a larger surface drag coefficient (CD) can induce stronger and more inwardly penetrated boundary layer inflow and upward motion at the top of the boundary layer. This can lead to stronger and more inwardly located condensational heating inside the radius of maximum wind with higher inertial stability and is favorable for more rapid intensification.
Results from full-physics model simulations using TC Model version 4 (TCM4) demonstrate that the intensification rate of a TC during the primary intensification stage is insensitive to CD if CD is changed over a reasonable range. This is because the increased/reduced positive contribution by the indirect effect of surface friction to TC intensification due to increased/reduced CD is roughly offset by the increased/reduced negative (direct) dissipation effect due to surface friction. However, greater surface friction can significantly shorten the initial spinup period through stronger frictional moisture convergence and Ekman pumping and thus expedite moistening of the innercore column of the TC vortex but is likely to lead to a weaker storm in the mature stage.
In Part I of this series of studies, we demonstrated that the intensification rate of a numerically simulated tropical cyclone (TC) during the primary intensification stage is insensitive to the surface drag coefficient. This leads to the question of what is the role of the boundary layer in determining the TC intensification rate given sea surface temperature and favorable environmental conditions. This part attempts to answer this question based on a boundary layer model and a full-physics model as used in Part I. Results from a boundary layer model suggest that TCs with a smaller radius of maximum wind (RMW) or of lower strength (i.e., more rapid radial decay of tangential wind outside the RMW) can induce stronger boundary layer inflow and stronger upward motion at the top of the boundary layer. This leads to stronger condensational heating inside the RMW with higher inertial stability and is thus favorable for a higher intensification rate. Results from full-physics model simulations indicate that the TC vortex initially with a smaller RMW or of lower strength has a shorter initial spinup stage due to faster moistening of the inner core and intensifies more rapidly during the primary intensification stage. This is because the positive indirect effect of boundary layer dynamics depends strongly on vortex structure, but the dissipation effect of surface friction depends little on the vortex structure. As a result, the intensification rate of the simulated TC is very sensitive to the initial TC structure.