2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧
それはストラトキャスターですか? 無造作に隣席にカバンとともに置かれたギターのソフトケースに見入った。小ぶりな袋のヘッド周りはストレートだった。ギブソンのギターではない。フェンダーだろう。テレキャスターか?と言おうと思ったが、ぶっきらぼうな…
よく国道沿いの販売所や道の駅で見かける。あるいは都心のスーパーの一角に木の枠で飾り付けられたコーナーもある。無農薬野菜や農家さん直送の野菜販売場所。野菜は確かに元気であり時に育てた農家さんの善男善女たる似顔絵がセロファンパッケージに描かれ…
ついたついたもう少しこれを動かして上のこのぶっとい奴に移れば良いね煙いけど、はたこう。団扇で すると新聞紙をこよりにしたものから火は焚き付けの乾いた小枝に燃え移る。その上の枝木に燃えつくまでは気が抜けない。燃え尽きそうになるとエスビットのカ…
夜半に目が覚める。トイレを済まし冷たい炭酸水を飲む。ドレープのカーテンを開けてみる。漆黒だ。しかし暗闇が動いている。霧が渦を巻き浮遊しているのだった。 この土地に住む前、霧の中で生活することなどを考えたことがなかった。縦走登山の幕営地。テン…
高原の地へ引っ越してきたのは五月の連休明けだった。新しい家は内装は無垢板で壁紙も貼らぬようにした。扉を開けた時の木の香りは忘れられない。これからここに住む、そう背筋を思わずただした。ここは海抜九百メール。住み慣れていた港町の家は海抜五十メ…
● 女のいない男たち 村上春樹 文芸春秋社 2014年 自分にとっては三冊目の村上春樹になる。図書館の棚には知らない作家ばかりとなったが足が止まる条件とはこんなところだろうか。知っている作家の場合。知らなくともその本の題名に目が留まった場合。もちろ…
県庁所在地の街まで所用があった。用事が終わると町は夕暮れだった。引っ越した山梨の地。県庁所在地がある甲府盆地はどこも交通量が多く時間帯によってはひどい渋滞も起きる。よくある地方都市と雰囲気は変わらない。高崎、宇都宮、水戸。何処も駅前にはシ…
八ヶ岳音楽祭というサブタイトルがあり計三回の演奏会が地元のホールで行われている。初回はピアニストによるバッハやモーツァルトの演奏会、二度目はビゼーの歌劇「カルメン」。三度目はオーケストラと合唱と題されドボルザークの八番とヴェルディのレクイ…
仕事から帰宅して、着替えてやりかけの庭仕事を続けた。北風の吹き下ろす日暮れにそれをやろうというのは少しでも早くあの憎きアレを退治したかったからだ。 その仕事は除草剤を撒く事だった。我が家の庭はスギナが滅多矢鱈に生える。これは地下茎で増えるの…
英語は基本的なビジネスツールだった。大学受験までは英語もよく勉強した。私立文系。現国・古文、地理、そして英語の三科目だけに絞っての受験だった。なんとか大学生になったがそこから先、全ての学習成果は頭から消えて行った。しかし何故だろう社会人に…
最近始めた仕事がある。そこは深い森の中に在る食品工場だ。そこの製造ライン見学や売店を目当てにそこそこの観光客も見える。そんなこともありアカマツとブナの林に囲まれた工場敷地内は清掃が行き届きあまり散らかっていない。しかし丁度ブナが落葉の季節…
あれはおくるみと言うのだろうか。白いガーゼ地にくるまれている。その上に肩から羽織る着物。青字の生地に刺繍が鮮やかだ。丁寧という漢字を十枚重ねても足りないといった風の、限りない柔らかさの中に包まれている。 日が良いのだろう。幾組もの人達がいる…
ふるさとの街焼かれ、身寄りの骨うめし焼土に…。 こんな歌があったらどんな気分になるだろう。どんな気持ちで歌えばよいのだろう。 新聞を取らなくなって久しい。全国紙は入れ替わり何種か取っていた。やがて一応は日経新聞の読者になった。電車の中で読んだ…
コスモスが咲ているのよ。そう細君は嬉しそうだった。 コスモスなんて植えていないのに何言ってるんだろう。半信半疑で庭に出た。ノリウツギとドウダンツツジの間に確かにピンと伸びた茎がありピンク色の花が付いていた。さだまさしが山口百恵のために書いた…
数か月前にホームセンターで手にしたポット植え。すでに香りが良かったので試しにと買ったのだった。それを庭の片隅に植えた。野草類も共に植えている。季節を終えて花が枯れてしまったものも、作業中に誤って踏んだり折ってしまったものもある。そんな中で…
渡る世間は鬼ばかり、そんな題のテレビドラマがあった。世間とは渡るものなのだろうか。するとそれは海か川なのだろうか? 三十五年務めた会社を早期退職してから数ヶ月はハローワークに通った。一息ついて職に就いた。キャリアカウンセラーという仕事は人々…
高速道路のサービスエリアだった。新宿から首都高速道路を西へ向かう。高井戸料金所から先は中央高速道路と名を変える。調布から八王子までは正面に高尾の山々を見る事になる。戦時中は陸軍航空隊が駐屯し首都防空の要だった調布飛行場。それを過ぎるとビー…
材料や道具をなどは準備できているのに何故か着手できていないことがある。もう十年以上前から用意だけはしている。なぜやらぬのだろう。どうしたらやるのか。 選ぶべき道は三つか。辞める。このまま成り行きに任せる。自分を鼓舞して無理やりにやる。 経済…
心優しい老夫婦が居た。迷子の子犬がやってきた。すこし怪我をしているようでもある。まぁ何と可哀そうな。うちで育てましょう。子犬は直ぐに大きくなる。そして老夫婦が大切に耕している畑を前に鳴き始める。「ここ掘れワンワン」と。さあて掘ってみると・…
中学生の頃に熱中した小説があった。角川書店から文庫で出ていた横溝正史シリーズだった。「獄門島」が最初だった。クラスメイトの女子が面白いよと教えてくれたのだった。すこしでも女子と話すきっかけが欲しかったこともあり、さっそく手に入れた。寺の鐘…
インターネットが世に広く出て来たのは1995年頃ではないだろうか。マイクロソフト社が世に出したウィンドウズ95というOSはコンピュータをネットワークに容易につなぐことを可能とし世界を変えたと思う。日本独自のOSを持っていた国内のパーソナルコンピュー…
曇天だった。山の天気は変わりやすい。晴れた日でも午後には曇り時に雨が来る、そんな日が続いていた。今朝は朝から陽が射さず風が森を揺らしていた。それが時折霞むのは白い粒が流れているからだった。その粒を手に取ることはできない。近くで見れば粒子だ…
この高原に引っ越してきてから多くの野鳥を見るようになった。パッと見ただけでは種類は分からない。夏にあれほど毎朝を賑やかにしてくれたホトトギスもカッコウも何処かへ行ってしまった。もう越冬地へ移動したのだろうか。ジョウビタキは一度だけ我が家の…
ピザは比較的簡単に出来てそれなりに楽しめるメニューだろう。もっともピザ生地から作れば面倒になる。これまでは生地作りからやっていたが来客でもない限り気合が入らなくなってきた。家内と二人なら出来合いのプレーン生地で十分だ。市販のピザソースさえ…
庭仕事に忙殺されている。庭のデザインを描き植えたい樹を考えた。大まかなラフスケッチをベースにあとは造園屋さんに入ってもらった。レイアウトづくり、整地、そして大物の樹木植栽。このあたりはすべてユンボの出番だった。 いったんそれが入ると庭は効率…
●小澤征爾 覇者の法則 中野雄 文芸春秋社2014年 世界のオザワ。クラシック音楽に興味が無い方でも知っているだろう。日本人指揮者は沢山居るが少なくとも欧州と米国では小澤征爾は人気知名度の点で別格だろう。西洋音楽とは無縁の遥か東の国からやってきてか…
ジャズ喫茶、名曲喫茶。好きな音楽を素晴らしい音響設備で大きな音で聴くことが出来る場所。そこは自己の世界に深く耽溺できる。だからこそ会話厳禁という、一つ間違えば何かの道場のような雰囲気も漂う。 学生時代に友が住んでいた世田谷区・下北沢。狭い通…
仕事を終えてスーパーに夕餉の買い物に立ち寄った。そこは国道沿いの道の駅に併設されている。勤務先から近く、仕事帰りに立ち寄ると丁度割引シールが総菜に貼られるので重宝している。目を皿のようにして割引品を幾つも籠に入れていた。今日もそんな世帯じ…
パリには二つの中華街があった。南東部の十三区、それに北東部のニ十区にそれぞれチャイナタウンが形成されている。我が家はパリ市十五区にあったので二つ隣の十三区の中華街が近かった。十三区のほうが歴史が古いのか、街はやや古びていた。パリの北部はえ…
二の腕を差し出す。ぐるりとカバーを巻いてそこに聴診器を挟む。丸いゴム球を何度も押すと水銀柱が上がっていく。腕が痛くなるほど固く締まるとゴム球についたダイアルを回す。空気が抜ける。125-75ですね、と医師は口にする。それが良いのか悪いのかも分か…