日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

パープーパープー

いつもの場合は記憶をたどる際には実際の資料や本を引っ張り出して確認する。今回は無理だった。この地に引っ越す際に断捨離としてその文献を処分してしまったのだから記憶に頼るしかない。

高橋留美子の漫画は初期の習作とともにその後の二作のみ大ファンだった。「うる星やつら」「めぞん一刻」の二作だ。高校生の頃は毎週少年サンデーを買っていた。大学生になってからはビッグコミックスピリッツがそれに加わった。SFチックなドタバタ感と登場人物が魅力の前者、多感な青年期に三流私大に通う冴えない主人公と彼の憧れのアパート管理人さんとのラブストーリーを描いた後者。いずれも熱中したが恋愛に憧れた時期に読んだ後者はまさに熟読していた。おんぼろのアパートは時計坂と言う架空の街にある。それは西武池袋線東久留米駅の近くであり実際そこの街並みが漫画に描かれている。自分も歩いた。ファンは色々憶測して訪れる。漫画界での聖地巡礼はここから始まったのではないだろうか。

主人公の青年はご多分に漏れずに就職活動が上手くいかない。保父の資格を取りようやく就職したのは幼稚園だった。社会人となった彼は自信を持ち管理人さんとの距離を縮めていく。全15巻の作品の最終回では桜の樹の下で二人は赤ちゃんを抱いている。ボロアパート、黒電話、行き違い、日産シルビアに乗る恋敵…。昭和を感じさせるとても素敵な話だった

彼が就職した幼稚園で他の保母さんがオルガンを弾くシーンが描かれていたと記憶する。それが正しいのか検証したかったのだがもうコミックは手放してしまったのだから確認が出来なかった。しかし確かにそのオルガンの音にはこんなオノマトペが使われていた。「パープーパープー」。一体何の曲なのか分からないが空気で音を出すオルガンなのだからその擬音は的を得ている。実際自分が小学校で聞いていた音もそれだったように思う。

車のオーディオには好きな音楽をジャンル別のフォルダにして入れている。甲斐駒ケ岳を正面に見ながら走る道を走っていた。スピーカーからパープーパープーと聞こえて来た。ああ。これか。幼稚園児には不向きかもしれぬが情操教育としては良いかもしれぬ。腕達者な先生なら弾けるかもしれない。胸が打たれた。なんという見事な曲、素敵な音だろう。昔から聞いていた曲だった。恋に悩む冴えない青年が徐々に自信をつけて憧れの女性にアプローチする。ひたすら天に向かい上っていく音形は行違う二人の感情が昇華していく様に似ている。何故か涙が溢れてしまい僕は山道で危うくハンドル操作を誤り崖から落ちそうになってしまった。

バッハの鍵盤曲は数えることが出来ぬほど存在する。作品番号BWV592には「オルガン協奏曲第一番」という名が付いている。全曲通して素晴らしいがパープーパープーと言うこの清らかな上昇はその第一楽章で顕著だ。

今更多感だったあの時期に自分も戻れるとは思えぬが、オルガンの音はやはり「何か」を自分に与えてくれる。そんな旋律に背中を押されながら僕は日々を過ごしている。幾らでも登るが良い。

バッハのマタイ受難曲の演奏会場だった。大好きなこの作品は合唱・独唱とオーケストラにと、大曲だ。ホールに備え付けのパイプオルガンもあるがポジティフ・オルガンがステージに在った。これもまた送風装置を用いて音を出す。パープーパープーと優しく柔らかい音だ。音楽はいつも何かを自分に与えてくれる。

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