治療記 脳腫瘍と悪性リンパ腫
僕は何をやっているのだろう、笑ってしまった。 頭の中に星取表が広がっている。特に勝敗を記しているのではない。 図書コーナーの有無と蔵書数。売店の充実度。展望。山は見えるか?鉄道は見えるか?建物や器具類は新しいか?野外テラスはあるのか?清潔か…
「私ね、仕事に戻ってからはもう注射針が打てないのよ。だから人間ドックの担当にしてもらったの。」 「大丈夫よ、すぐに感を取り戻すわよ。」 「そうかしら?でも震えて、怖いのよ」 そんな話が笑いとともに三人の女性連れから聞こえてきた。彼女たちは病院…
二の腕を差し出す。ぐるりとカバーを巻いてそこに聴診器を挟む。丸いゴム球を何度も押すと水銀柱が上がっていく。腕が痛くなるほど固く締まるとゴム球についたダイアルを回す。空気が抜ける。125-75ですね、と医師は口にする。それが良いのか悪いのかも分か…
高原の地に引っ越すと病院もまた変わることになる。自分の診療科は血液の病を診療する科であり「血液内科」と呼ばれている。一昔前ならば内科といえば総合的なもの以外は呼吸器科、循環器科、消化器科程度、加え神経内科あたりしか細分化されていなかったと…
自分の脳の画像などなかなか見る機会はない。幸か不幸か脳腫瘍になったおかげで摘出前と摘出後から今日まで、病院には自分の脳のCT画像が時系列に保存されている。何時まで経っても取れないふらつき感。疲労は何だろう。神経内科の医師に脳の画像を見てもら…
あれは寒い夜だった。 ずっと頭に違和感を感じていた。再就職した新しい仕事の研修でも集中力に欠けた。ある日歩行中に転倒、その夜は食器を落としてしまい、慌てた妻は救急車を呼んだ。即座に取ったCTで脳腫瘍を告げられたがその辺りの記憶は混然としている…
12月を一年の終わりとするならば、今日で無事に今年は終わった、と感じた。 入院していた病院のある街にはこのあたりではなかなか気の利いた商店街がある。自転車も多く行きかい大学の附属高校もある。活気があるのだ。今日は年末らしくいつにもまして人が多…
良い医者とは何だろう。症状に合わせた治療をしてくれる医師か。自分の納得のいく説明をしてくれる医師か。安心感を与えてくれる医師だろうか。 最初のポイントが最も大切だろうが、後者2点も重要だ。余り説明を受けぬままとにかく治療を受けて治癒。それは…
2021年2月13日に入院し7月15日。5か月が経過していた。RMPV治療の5クールを予定通り終え、13回の放射線治療、そして2回の地固めの大量キロサイド療法も終えた。一通りやることはやった。仕上げは造影剤を体内に入れてCTで全身スキャン。脳の腫瘍はどうなった…
RMPV療法を手始めとした一連の悪性リンパ腫治療も、放射線治療をも終えると最終段階だ。大量キロサイド療法と呼ばれるそれは、キロサイド(シタラビン)を大量に点滴投与するもの。シタラビンは急性白血病に使われるというが、悪性リンパ腫でも使われるとい…
無用な緊張を避けるためか、とにかくリラックスしてもらうためか、放射線治療室の待合室はなぜかマイケル・ジャクソンからホール&オーツ。ワムからカルチャー・クラブ、バナナラマ。そんな1980年代の米英ポップミュージックが流れているのだった。放射線治…
RMPV療法自身は終了したが、自分の悪性リンパ腫治療のメニューとしては、次に放射線治療が待っている。放射線科医師による治療の概要と副作用についての念入りな説明があり、同意が求められた。 ・放射線治療の目的:脳内病変を制御する目的で脳全体に放射線…
第4と第5。残り2クールとなった。あと4週間か。それでRMPV療法は終わりだ。その後は放射線と大量キロサイド療法。 第2クールで炎症をおこし発熱の元となった静脈カテーテルを再度挿入する。2度目の血管造影室は緊張感もなかった。もう第3クールでの導尿感の…
第3クールは奇数クール。抗ガン剤としてはプロカルバジンの錠剤が第2クールから増えるだけで、他は特に変更もない。これ迄のクールを通じて抗ガン剤による吐き気や抜け毛といったステレオタイプな副作用はなかった。ありがたい話だ。 初日のリツキシマブは…
第2クールの治療は第1クールと同様な時間軸だ。ただし抗ガン剤は一種類減る。(プロカルバジンの内服はない。)月曜日に分子標的治療薬・リツキシマブ。火曜日に細胞増殖抑制剤・メソトレキセートとDNA阻害剤・ビンクリシチン。これらが終わり次第腎機能保全…
(1)火曜日 ● メソトレキセート投与各クール1週目の2日目は細胞分裂抑制剤であるメソトレキセートの点滴となる。今回の治療の一番のキープレイヤーだと、ドクターは言われる。脳への薬剤は血液脳関門のためになかなか効果がないといわれるなか、この薬を大…
いよいよ5クールのあるうちの第1クールが始まった。 奇数クールは抗がん剤が偶数クールよりも1種類多い。だから初回から、フルコースだ。まず第1週は月曜から金曜までが投薬フェーズ。第2週は体調の回復に充当されている。この2週間で、第1クールが終わるの…
ガイダンスの直後からそのまま入院となった。病室は7階の南西向きの病棟。展望があるな。丹沢が見えるか、と期待するまでもなく、それは自明の理だった。冬枯れの丹沢が窓の外にくっきりと浮かんでいた。病室から丹沢が見えることが、ひどく嬉しかった。ここ…
R-MPV療法について若干の追加を以下に記する。 私のリンパ腫(中枢神経原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)に対しての治療法は3段階からなるものだという説明であった。R-MPV療法というもので大きく3ステップ。 ①R-MPVという4種の抗がん剤で腫瘍を絶滅させ…
転院先の血液内科のドクターは40代後半だろうか。患者の目をじっくりと見て話すタイプのドクターだった。入院前のガイダンスとして、私と家内二人に対して2時間以上の時間を割いて、これからの治療方針の説明と、こちらの疑問についての質疑応答の時間を設け…
頭の手術跡はだいぶ癒えたようだ。ある日、「そろそろ外しましょうか」と看護師さんが手術野を縫合をしていたステイプラを取り外した。触ってわかってはいたが、糸ではなく大きなホチキスか。こんなのが自分の頭に刺さっていたのか。 そしてしばらく後、よう…
リハビリにも種類があるという事を入院を通じて知ることが出来た。 理学療法、作業療法、言語聴覚療法 の三つだった。それぞれに専門の療法士がつく。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)言語聴覚療法士(ST)だ。 ・理学療法集中治療室を出る前から始まった私…
シャワーが許されるようになった。最初は特例か、と思ったら毎日可能だった。頭の手術痕もお湯をかけてよいという。傷口は閉まっているのだろう。ただシャワーそのものは看護師さん見張りの下だった。それも最初だけで、自分が手すりにつかまりながらきちん…
「導尿管は今日で終わりにしましょう。オムツは念のため続けてください」看護師がそう告げる。ああ、導尿管、ついていたのか。 管を抜いて、なんだかとても楽になった。これまで通りオムツは続けなくてはいけないらしい。確かに、小用に関しては制御の自信が…
2021年2月2日、果てしもなかったように思えた集中治療室から出る日が来た。一般病棟への移動だ。 同じ階だが大きな自動扉の向こうは外光が大きく入りまるで別世界だった。部屋は大きい。8人部屋だという。尤も室内は5人程度の入院者であった。コロナ対策。換…
ICUに入って何日目だろうか、スマホが使えるようになった。頭にたくさんのことが浮かぶ。家族。家内も娘たちも心配していることだろう。しかし今はコロナという事もあり見舞いに来ることも叶うまい。必要なものは家内が持ってきてくれるがそれも階下の受付ま…
手術も無事に終わり状況確認のためにMRIを撮るという。とたんに不安になる。MRI、いつだったか覚えていないが、つい最近撮ったではないか。あれはすごく怖くて二度と受けたくないな。 MRIはこれまでも何度も受けていたからそれがどんなものかはよくわかって…
まだまだICUで昼夜の境もつかない時間が経過している。 髪をずっと洗っていないせいかやたらと頭が痒い。ある日看護師さんが、「頭をきれいに洗いましょう。」と言ってくれる。ベッドの上に座ったまま、ここでやるという。頭を洗えるという事は脳外科手術の…
「・・・さあ抜きますよ」そんな声がどこかに聞こえたかと思ったら、強烈な違和感が喉を襲い、その不快感で私は一気に目が覚めた。 「抜管」。気道確保のために口から挿入されていた管を抜いたのだった。 「げー、こんなのが口から中に入っていたのか」、と…
2021年1月21日(木)搬送された病院への入院手続き。コロナ対策もあり、病棟に入院したら会えなくなるので、処置室に居るうちに会うように勧められたということで、家内と娘がやってきた。(それはあまり覚えていない)面会中に食事となり、うどんの入ったド…