第17回連載後記:料理は「生きる力」 妻の思い出と歩む遍路道
僕のコーチはがんの妻 連載後記
結婚20周年を前に、妻ががんになりました。記者である僕は、負担を減らそうと料理を習い、妻から多くのレシピを教わりました。連載後記として妻と僕の経験のうち、患者や家族が役立ちそうなこと書いておきます。
妻は最後に家にもどる直前、何かを決意したように目を見開いてこう言った。
「ミツルが書かないなら、私が在宅の体験を新聞に書こうか? 闘病記とかはいやだけど、在宅医療のことなら、ほかの病気で抵抗感じてる人にも役立つでしょ?」
それまで「私は普通の主婦や。なにも残したいとは思わん」と言っていたから意外だった。もう鉛筆を握る力もなかったけれど、経験を伝えたいと思ったのだろう。その言葉が今回の連載を後押ししてくれた。
妻と僕の経験のうち、患者や家族にわずかでも役立ちそうなことを伝えておきたい。
◆在宅緩和ケアは現実的で経済的
在宅は人の目が届かないと心配したが、病院だってナースコールを押せない患者は、看護師の巡回時しか意思を伝えられない。自宅で隣で寝た方が異変に気づきやすいこともある。
良質な訪問看護師やヘルパーがいれば、トイレや入浴はほぼまかせられる。不安が大きい時の付き添いは必要だが、それは病院でも同じ。
僕が検討した公立病院のホスピスは1泊約2万円だった。在宅緩和ケアは医療保険や、40歳以上ならば介護保険を使えるから金銭的負担も比較的軽い。
住宅事情や症状によっては、ホスピスや病院が望ましいケースもあるかもしれないが。
◆在宅緩和ケアのクリニックに早めに相談を
がんセンターなどには緩和ケアチームがあり、病棟看護師には難しい心のケアを担ってくれる。だが、在宅の患者をみる訪問看護師のような「生活を支える」発想はとぼしいと感じた。在宅緩和ケアを実践するクリニックなどに入院中から相談した方がよい。在宅緩和ケアの現場を医師が記録した「なんとめでたいご臨終」(小笠原文雄 小学館)には励まされた。
◆点滴や過剰な検査に注意
点滴によるむくみで苦しむ人は多い。回復の見込みがないのに負担が重い検査を提案されることもある。僕と妻は自分たちで判断したが、「治療」中心の病院の医師以外に、在宅緩和ケアの医師の意見を聞いた方がより的確に対応できたと思う。
◆代替療法も検討
法外なカネを請求する代替療法は論外だが、マッサージや鍼灸(しんきゅう)などは、「回復の見込みがない」と病院に見放された後の支えにもなる。西洋医学以外の多様な療法も駆使し、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱してきた帯津良一医師の本が参考になった。
◆希望を患者に押しつけない、でも介護者は希望を
死を受け入れようとする患者…