第1回「時間の貯金」日本は生かせ 油断悔いるフランスの教訓

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 先日、記者が暮らすパリのマンションの玄関に救急車が横付けされた。しばらくすると、イスに座ったままの中年の住民の女性が、全身を防護服で覆った3人の救急隊員に抱えられ、救急車の中に運び込まれていった。付き添った男性は同乗せず、閉まったドアの窓へ顔を近づけ、励ますように女性へ手を振った。

 新型コロナウイルスが猛威を振るうフランスが外出禁止令に踏み切って1カ月。パリからは観光客も通勤客も消えて街は沈黙しているが、病院だけは重症患者であふれている。

 いま病院に行けるのは症状が重い人だけだ。それでも、年齢によっては人工呼吸器があてがわれる保証がない時期が続いた。

 外出禁止令が出た先月17日以来、人々は家に閉じこもった。それでも死者数はその後、当時の175人から80倍以上に増えた。

 毎日発表される犠牲者の数は、必ずしも現在の感染状況を表さない。むしろ潜伏と闘病期間をさかのぼった「過去」を反映したものだ。だから、外出禁止令を出しても、効果が出るには時間がかかる。その間、死者は増え続ける。これが欧州の国々が直面した厳しい現実だ。

 ほんのひと月前、3月上旬のフランスは、サッカーの1部リーグ戦が続き、パリの地下鉄は朝夕のラッシュ時はごった返した。大統領は夫人と観劇に出かけていた。テレビは「なぜフランスはイタリアよりうまく感染を防げているのか」といった番組を組み、中国やイタリアは対岸の火事だった。私もその一人だった。

 フランス人はいま、感染者が増えてきている日本を見て、過去のフランスを思い出しているかもしれない。

 歴史に「もし」はないけれど…

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