ロケットに残したママの指紋 本当の目的、4歳の娘はいつかきっと
だいすきノート 第3話
スキルス胃がんと診断されたみどりさんは、32歳だった2019年10月、慶応大病院に入院し、治療を受け始めた。
個室に入り、痛みを抑えるモルヒネや、息苦しさを和らげるステロイド薬を使いながら、週に1度のペースで抗がん剤の点滴を受けた。
工場エンジニアの夫、こうめいさん(37)は、勤務を在宅に切りかえ、幼稚園に通う双子の娘、もっちゃん、こっちゃんのお弁当づくりを始めた。それまでは、みどりさんに任せきりだった。
コロナ禍が来る前のこのころ、在宅勤務は珍しかった。でも、職場は理解を示してくれた。
週末などに病院に来た娘2人は、ふだん会えない分、甘えたい気持ちが爆発して、ベッド上にいるママに飛び乗り、よじ登った。
「大丈夫かな」。こうめいさんたちはハラハラしたが、みどりさんは平気そうだった。
モルヒネをうって抑えてはいたものの、体の痛みは続いていた。でも、娘たちといるときは、痛みを忘れられた。
2人は「ママの応援団だよ」といって、病室にお気に入りの人形を持ち込み、一緒に遊んだ。
費用はかかるけれど、個室に入ってよかったと、こうめいさんは思った。
「いつもママと一緒」
11月1日、看護師長だった近藤咲子さん(65)=2021年3月に定年退職=が、お見舞いにやってきたもっちゃん、こっちゃんに声をかけてきた。
「いっしょにやってみない?…