高次脳機能障害、介護する人の44%「うつ傾向」 孤立しない対策を
脳卒中や頭のけがによる後遺症「高次脳機能障害」について、当事者とともにそばで支える家族らへの支援が課題となっている。介護している家族の44%に「介護うつ」の傾向があるとの調査結果もある。
高次脳機能障害は、病気やけがなどで脳が傷ついたことで起こる、言語、記憶、思考などの認知機能の障害だ。新しいことが覚えられない(記憶障害)、計画がたてられない(遂行機能障害)、集中できない(注意障害)、怒りっぽくなる(社会的行動障害)、上手に話せない(失語症)など、さまざまな症状がある。年間3万人が、新たに患っているとの推計もある。
東京慈恵会医科大付属第三病院リハビリテーション科の渡邉修教授らは2018年、全国60カ所余りの家族会などにアンケートを行い、約1千世帯から回答を得た。
このうち、19歳以上の患者がいる964世帯について分析した。原因は脳外傷が5割、脳血管障害が3割、他に低酸素脳症や脳腫瘍(しゅよう)など。発症の平均年齢は脳外傷は28・8歳、脳血管障害は46・4歳だった。
分析の結果、食事やトイレなどの日常生活動作は75%の人が自立していた。一方で、「バスや電車で1人で外出できる」「日用品の買い物ができる」人は5割前後、「預貯金の出し入れが自分でできる」人は4割を下回り、多くの人が社会生活に介護を必要としていた。
介護をになう人は配偶者や両親が多かった。介護の負担感を「本人のそばにいると気が休まらない」「本人が家にいるので、友達を自宅に呼びたくても呼べない」などの質問からなる介護負担尺度(32点満点)を使って調べたところ、「介護うつ」の可能性が考えられる13点以上の人は44%いた。
介護負担感は、患者が一般就労をしている群や、外出が週4日以上の群のほうが、そうでない群より軽いことも分かった。
急性期の病院を退院後、家族にとって最も精神的な負担になったのは「性格の変化」が5割以上と最多で、「就労や就学の可能性や継続性」が続いた。
一方で、急性期の病院で医師から高次脳機能障害について説明を受けた世帯は15%にとどまり、適切な情報提供を受けていない実態も浮き彫りになった。
高次脳機能障害は、周りから気づかれにくく「怠けている」などと誤解されがちだ。本人に障害の自覚がないこともある。退院後に社会生活を送ろうとしてつまずき、発覚するケースも多いという。相談先がわからず、本人も家族も、閉じこもって孤立してしまいがちになる。アンケートの自由記述覧には「障害の認知度の低さに生きづらさを感じる」「各種制度へのアクセスが悪く、利用にたどり着けない」といった悲痛な声も寄せられた。
渡邉教授は「退院後に本人や家族が孤立しないように、医療機関は、退院後の地域生活を見据えた助言をすることが大切。ワンストップで相談できる窓口や、地域の中でリハビリを提供する場を拡充するなど、本人や家族を生涯にわたってサポートする仕組みの整備が必要だ」と指摘する。