唐十郎の「迷宮」に光 詩人・新井高子さんに吉田秀和賞

林瞬
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 【茨城】水戸芸術館の初代館長で音楽評論家吉田秀和さんの没後10年となった今年、音楽・演劇・美術などの優れた芸術評論に贈られる吉田秀和賞水戸市芸術振興財団主催)の受賞作が31作品目となった。芸術評論に対する賞が国内に少ないなかで、優れた評論に光を当てる取り組みであり続けている。

 吉田さんは「万人に開かれた評論」をめざし、軽快な筆致で膨大な著作を残した。朝日新聞文化面の「音楽展望」も執筆。1990年、水戸市が「予算の1%を文化に費やす」としてオープンさせた水戸芸術館の館長に、当時の市長に請われて就いた。

 吉田秀和賞も同年からスタート。吉田さんらが審査し、ジャーナリスト立花隆さん(受賞作は「武満徹・音楽創造への旅」)や、美術史家の小林頼子さん(同「フェルメール論~神話解体の試み」など)らが受賞してきた。

 受賞作がない年もあり、第32回の今年は、詩人で埼玉大学准教授の新井高子さんの「唐十郎のせりふ 二〇〇〇年代戯曲をひらく」が選ばれた。「迷宮」とも評される劇作家・唐十郎さんの戯曲の難解なせりふを、新井さんの視点で読み解いた。

 「唐十郎にのめり込むことができたのは人生最大の幸福。唐さんの作品は不思議で面白い。わからなくても吸い寄せられて、それをかみしめて言葉になった」と新井さん。審査委員の片山杜秀慶大教授は贈呈式で「心情を移入し、かつ客観的視点を維持しながら新井さんの目と耳で体験したことを言語化している。批評としての距離を保ちながら、唐十郎への強い思いが伝わる」と評した。

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この記事を書いた人
林瞬
コンテンツ編成本部
専門・関心分野
漫画やアイドルなどのサブカルチャー、ジェンダー