30歳でがん宣告「ピノコ」と名付けた肉腫 したたかな彼女との闘い

有料記事患者を生きる

熊井洋美
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 昨年末に迎えた結婚記念日、吉崎有希絵さん(36)と夫の響さん(42)は、国立がん研究センター中央病院にいた。

 有希絵さんのおなかに居座るがんの3度目の再発がわかり、初めての抗がん剤治療を受けることになっていた。

 通院に先立ち、有希絵さんは肩下まであった黒髪を切りピンク色に染めた。副作用のため、おそらく髪は抜ける。

 「ならば、いろんなヘアスタイルを楽しもう」と少し前から決めていた。

 有希絵さんのがんの正式な病名は、後腹膜脂肪肉腫(こうふくまくしぼうにくしゅ)。おなかの臓器のすき間にできる、10万人に1人足らずの珍しいがんだ。

 おなかに居座るがんを、有希絵さんは「ピノコ」と呼んできた。手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」に登場する、奇形腫から生まれた女の子が由来だ。

 「ずっと体にあるものを攻撃するのは、不思議な気持ち」

 ピノコとの出会いは6年前。30歳になる前から、体が重く、むくみが取れない日々が続いていた。

 北陸地方で生まれ育ち、秋田の大学を卒業後、上京してアートにかかわる仕事についていた。

 「便秘かな?」

 30歳を境に、女性の体は変化するともいう。試しに鍼灸(しんきゅう)院に行ってみた。ベテラン鍼灸師は体に触れるなり言った。

 「おなかの張りは便秘ではない。すぐに医者にいったほうがいいですよ」

 会計のときに、もう一度言われた。

 「ほんとうに、なるべく早く病院に行ってくださいね」

義兄から言われたまさかの言葉

 医師の姉夫婦に相談し、泌尿…

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    岡崎明子
    (朝日新聞デジタル企画報道部編集長)
    2023年1月28日13時17分 投稿
    【解説】

    「肉腫」とは、全身の骨や、筋肉や脂肪、神経などの軟部組織から発生するがんのことです。非常にまれながんであるとともに、色々な種類に分けられる多様性が特徴で、患者数が少ない「希少がん」の一つです。 たとえば、骨から発生する骨肉腫は若い患者が多

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