「どうせ食べられへん」娘の一言からうまれた、誰でも通えるケーキ屋
食物アレルギーがある人もない人も自由に商品を選べるケーキ店が兵庫県西宮市にある。「同じお皿の上で」を掲げる店ができたきっかけは、社長の長女が発したある一言だった。
「どうせ自分は食べられへん。見てもむなしいだけや」
一昨年夏ごろ。おいっ子の誕生日会に持って行くケーキを選ぼうと、武市圭さん(40)が神戸市内でケーキ屋を探していた時、一緒にいた長女の琴乃さん(13)の我慢は爆発した。当時、小学6年生。琴乃さんには卵や乳、ナッツなどのアレルギーがある。あちこちの店を回ったがどれも「卵」や「乳」の品目が記載してある製品ばかりだった。
武市さんは長女のこの一言がきっかけで、「誰もが楽しめるケーキ屋さん」をつくることを決めた。元々東灘区でカフェを営んでおり、2号店として計画中だった西宮店を、原因物質を含まない「アレルゲンフリー」のケーキ屋に衣替えした。
JR西宮駅から徒歩20分にある「コープ西宮南店」の3階に昨年9月、「CAKE&DELI Mutter」をオープンさせた。冷凍のショーケースにチョコやイチゴなどのケーキが20種類あり、アイスクリームやピザなども加えると計40種類が並ぶ。いずれも「7大アレルゲン」と呼ばれる卵や乳、小麦を一切使っていない。
ケーキは全て、社長の武市さんの手づくりだ。東灘区にある工房で研究を重ね、甘みにはメープルシロップやきび砂糖を使うなど味を追求した。冷凍で3週間近く日持ちすることも相まってSNSや口コミで話題になり、北海道や九州など全国から買い物客が訪れるようになった。昨年のクリスマスには、100ホール以上のケーキが売れた。
「最高の時間を過ごせた」「初めてショーケースからケーキを選べた」――。中には涙を流して喜んだ客もいたという。長女も次女も、自由に選べるこの店のケーキが大好きだ。
店内ではあえて「アレルゲンフリー」を前面には掲げていない。武市さんは「アレルギーのある人もない人も、誰でも通えるお店でありたい。同じお皿の上で、食事を楽しんで欲しい」と願う。
2月11日と12日には卵や乳、小麦を使わず、米粉や豆乳クリームなどで作るチョコレートケーキのワークショップを開催する。午前10時~午前11時半と午後2時~午後3時半。各回定員5組で、参加費は6200円。問い合わせはCAKE&DELI Mutter(080・4709・8505)へ。