第21回アベノミクスが覆い隠した人権リスク 企業が逃れられない大変革の波

有料記事資本主義NEXT 会社は誰のために

聞き手・藤田知也
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 「環境」への意識は急速に高まってきた日本企業だが、「人権」への意識は欧米の周回遅れだ。SDGs(持続可能な開発目標)の達成もままならず、このままでは投資家から突き放される恐れもある。元経産官僚で企業コンサルタント、NPO理事という「三つの顔」を持つ羽生田慶介・オウルズコンサルティンググループ代表に、企業は人権とどう向き合うべきかを聞いた。

 ――そもそも企業に人権への対応が求められるのはなぜでしょうか。

 「新しい資本主義が企業に問うのは、『10年後も存続する会社なのか』です。中長期で投資をする機関投資家が事業の持続可能性を重視するようになり、人権や環境に有害とみなされると、ビジネスや市場はいずれ消えてしまいます。企業が人権侵害に関与しないことは、10年後も存続すると証明するための最低条件です。ところが、多くの日本企業は過去10年で人権リスクを拡大させています」

 ――どういうことでしょう。

 「アベノミクスで経済が好転したと言われる過去10年の日本企業の業績を足し合わせると、売り上げはほぼ変わらず、コスト削減だけで利益を5倍も増やしてきました。行きすぎたコスト削減は、サプライチェーン(供給網)に強いストレスを与えています。調達原価や人件費を削ったことで、10年前はなかった人権リスクが国内外の供給網で膨らんでいます」

経済や軍事と並ぶ「ノーマティブパワー」

 ――人権対応は欧米企業で先行しています。

 「欧州では『ノーマティブパ…

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この記事を書いた人
藤田知也
経済部
専門・関心分野
経済、事件、調査報道など
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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年3月1日19時55分 投稿
    【解説】

    国際政治学の文脈で「Normative power(規範力)」という場合、他国に対して自国の規範を押しつける力、ということになるので、ここで使われている議論とは少し違う。実際、欧州が人権をサプライチェーンの問題とし、それをアメリカが対中政策

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