アジフライに託した未来 細る父と向き合い、息子は大手企業を辞めた
渡辺翔太郎
国内有数の水揚げ量を誇る境漁港(鳥取県境港〈さかいみなと〉市)。そのすぐ近くの会社に、ある魚に社運を賭けた男性がいる。
高価なカニでもクロマグロでもなく、とても身近な魚。そしていま、世界にその味を広めようと、大きな野望を抱く。
「良くない話だけど、驚かないでね」
2013年の夏、食品メーカー「味の素」の研究員だった角谷(かどたに)直樹さん(43)が東京・神田を歩いていたとき、スマートフォンが鳴った。鳥取にいる母親から電話がかかってきた。
立ち止まって、耳を傾ける。心臓がどきどき脈打つのが分かった。いやな予感がした。
「実はお父さん、がんになっ…