第1回政治的公平を政府が判断・処分すれば憲法違反 元BPO委員長の警告
放送局の番組編集について放送法が定める「政治的公平」。その解釈に追加を求め、安倍政権当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省とやりとりしていた経緯を記したとされる行政文書の存在が明らかになった。文書から見えてくる解釈追加の経緯や狙い、そして政治と放送の関係について、どんな問題があるのか。各界の識者に聞いた。
放送の自主・自律を守るために放送界が自ら作った放送倫理・番組向上機構(BPO)で、放送倫理検証委員会の初代委員長を務めた弁護士の川端和治(よしはる)さん(77)は、放送法をもとにした政府の介入は憲法に違反すると考える一方で、放送局にも過剰な自己規制がないかと投げかける。(以下、肩書はいずれも当時)
久々の行政指導に驚いた2015年
――今回明らかになった総務省の文書には、安倍政権下の2014~15年、礒崎陽輔首相補佐官が放送法の政治的公平性について新たな解釈を求めて総務省とやり取りしていた経緯が記されています。読んで何を感じましたか
やっぱりそうだったのか、と納得しました。文書内で、礒崎氏の「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」という言葉がありました。安倍政権中枢の考え方が反映された言葉だったと思います。
――「やっぱり」とは?
NHK「クローズアップ現代」で14年に放送された「出家詐欺」報道の過剰演出問題に対して、15年4月に高市早苗総務相が厳重注意の行政指導をしました。これには驚きました。
行政指導は過去には度々なされており、特に06年からの第1次安倍政権では約1年の間に6件もの行政指導がなされました。しかし07年にBPOに放送倫理検証委員会が設置されて以降、あのときまで、総務大臣による行政指導はありませんでした。局長名での行政指導は09年にありましたが、放送倫理検証委の委員長コメントとして、放送局の自主・自律による是正が期待できる限り、総務省の行政指導は控えるように訴え、それ以来、途絶えていました。
番組に問題があった場合、放送法は、番組審議会による是正など、放送局が自主的に再発防止などに取り組む制度を用意しています。さらに放送局側はBPOによる是正の制度も構築しています。強大な権力を持つ行政がたとえ行政指導であれ放送内容に注文をつけることは、放送局に萎縮効果を与えます。
今回の文書を読んで、突如8年ぶりに総務大臣による行政指導を行った政府が、放送法の解釈を変えることでも放送局をコントロールしようとしており、それは安倍政権の姿勢だったのだと改めて思いました。
放送法4条は「倫理規範」、政府も長らく解釈
――なぜ放送局が自主的に再発防止に取り組むべきなのでしょうか
放送法の4条1項は番組編集準則といって、政治的に公平であることや事実をまげないことなどが書かれています。これについて政府は、当初は放送局が自主・自律的に守るものとして立法したと国会でも表明し続けたのに、1993年に後述する「椿(つばき)発言」問題が起こった後は、番組編集準則に違反すると電波法76条で定める停波処分の対象になるとしています。
文書の中に礒崎氏の「法律に規定がある以上は守らせないといけない」という発言が書いてありますが、それもこの番組編集準則が、政府が処分によって強制できる法規範だという解釈に基づいています。
法律に基づいて処分できるのは当然――その考え方を川端さんは否定します。記事の後半では、なぜそれが許されないのかや、放送法の解釈追加を果たした安倍政権が逆に放送法4条などの規定を無くそうとした動きなどについて、解説します。
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