憧れ、ねたんだ「そちら側の人」 万引きの日々で妄想した無差別殺人
小田急線刺傷事件 被告が無差別事件を起こすまで(前編)
2年前の夏、男は東京を東へと走る小田急線の快速急行電車を、パニックと恐怖に陥れた。その約2カ月後、別の男が京王線でも似た事件を起こす。近年頻発する無差別殺傷事件。犯行に至るまでに何があったのか。法廷での言葉からたどる。
6月27日午前、東京地裁で最大規模の104号法廷。白いシャツに黒い細身のズボン姿の対馬悠介被告(37)は、名前や住所の確認に淡々と応じた。
被告は2021年8月6日午後8時半ごろ、登戸(川崎市)―祖師ケ谷大蔵(東京都世田谷区)を走る電車内で、当時20~52歳の3人を包丁で刺すなどして殺害しようとした、として起訴された。他にも事件当日の万引きなど、計七つの罪に問われた。
裁判長が「検察官が読み上げた公訴事実で違っているところはありますか」と尋ねた。
「ないです」。落ち着いて、よどみなく答えた。
続く冒頭陳述で、検察官はこう指摘した。
「かねて『男性の友人から見下されている』『女性から軽くあしらわれている』と感じ、そのような男女が幸せになっていくことが許せないという思いを抱き、自分が死にたいほど苦しい思いをしていることから、幸せそうなカップルや、男にちやほやされる、いわゆる『勝ち組』の女性など、幸せそうな人たちを殺したいなどと考えるようになった」
その後の公判で明らかになった被告の人生の前半は、そうした考えとは無縁のものだった。
対馬被告は6月に始まった公判で、事件を起こすまでの経緯や心の動きを詳細に語りました。事件に至るまでのストーリーの「前編」と、事件当日の話の「後編」に分けてお届けします。
友人に囲まれた学生時代
1985年生まれの被告は、3人兄弟の長男。
逮捕後に精神鑑定を担当した医師が聞き取った家族の話によると、小さい頃は「泣き虫だが、よく寝て、よく食べる、手のかからない子だった」。
友達を積極的に作るタイプで…
- 【視点】
「男にちやほやされる、いわゆる『勝ち組』の女性」を恨んでいながら、「正直そういう女性と付き合いたい、でも僕は相手にされないし」というところに脱力してしまう。 この被告人みたいなタイプは、男に貢がれるような容姿の女以外は、視界にも入っていな
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きょうも傍聴席にいます。
事件は世相を映します。傍聴席から「今」を見つめます。2017年9月~20年11月に配信された30本を収録した単行本「ひとりぼっちが怖かった」(幻冬舎)が刊行されました。[もっと見る]