不完全燃焼だった東京パラ 再確認した目指す場所、辻沙絵の集大成は
「自国開催というプレッシャーがあったかもしれない」
東京パラリンピック陸上女子400メートル(上肢障害T47)に出場した辻沙絵選手(28)=日体大教=は2大会連続のメダルを狙ったが、5位に終わった。
当日はコーチが会場に来られないハプニングもあり、「いてほしい人にいてもらえないという不安な気持ちもあって、万全な状態ではなかった」。不完全燃焼だった。
東京大会後、視線はすぐにパリへ向いた。さらに、闘争心をかき立てられたレースがあった。
今年7月にパリで開催された世界選手権。障害の異なる男女4人がタッチでつなぐユニバーサルリレーに出場し、金メダルを獲得した。表彰台の真ん中で場内に流れる日本国歌を聞き、感動が押し寄せた。
「自分がめざしたい場所は、ここなんだと再確認できた。『ここに立ちたいから競技している』というのを思い出させてくれた意味では、すごくいいタイミングだったなと思います」
もともとは東京大会を集大成と位置づけていた。「陸上が人生のすべてではない」と考えていたからだ。だが、大会が近づくにつれて気持ちは変わっていった。
「半年前、3カ月前となって、これで終わるのがもったいないなって。自分と会話したときに、まだできそうっていう気持ちが残っていた。やりたいことが実現できつつあって、競技が楽しくなってきたことも大きかったと思います」
東京大会後は走り幅跳びに挑戦した。スピード強化の一環で、本職の400メートルで結果を残すため。100メートルや200メートルのレースにも積極的に出ることで、前半の200メートルのスピードが上がった手応えを得ているという。
「違った種目に挑戦することで新たな気づきもあったし、なにより陸上が楽しいと思いながらトレーニングができたのがよかった」
東京大会は多くの人がパラ競技を知る機会になった。「オリパラ関係なく、スポーツを通して日本中を熱くさせた。こういうことが共生社会への一歩につながる」と話す。
陸上界では昨年初開催された「NAGASEカップ」など健常の選手とパラアスリートが一緒に出場できる大会も増えてきた。
「私が競技を始めた2015年ごろと比べると、競技をしやすい環境に整いつつある。選手や競技を知ってもらえる機会が増えたのは本当にうれしいこと」
辻選手にとって、来年のパリ大会はどういう位置づけなのか。
「最後のパラリンピックです。集大成になるという気持ちは変わりません」と言い切る。
1年後、どんな表情でスタートラインに立つのか。そのときを思い浮かべながら28歳は前に進む。
つじ・さえ 1994年、北海道出身。生まれつき右のひじから先がない先天性前腕欠損。2016年リオデジャネイロ・パラリンピック女子400メートル(上肢障害T47)、17年世界選手権でそれぞれ銅メダルを獲得した。