名人戦でベートーベンの口笛吹いた 勝敗だけのAIを超え 佐藤天彦

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聞き手・宮崎陽介
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 デジタル化の波は、アナログの世界をのみ込んでしまうのか――。将棋の世界は、すでにAI(人工知能)抜きには語れない。名人位にあった時、AIの将棋ソフトと対戦した佐藤天彦九段に聞いた。棋士になすすべはあるのか。デジタルに覆われる世界で、人間だからこそできることとは。

 ――将棋界では、AIの活用が当たり前になっています。

 「改めて思うのは、人間はリアルな身体から逃れられないアナログな存在だということです。AIから得た膨大な、しかも、質・量ともに人間の感覚とかけ離れた情報を、どう記憶し、処理するか。人間はやはり、手で盤上に駒を並べるとか、マウスをカチカチやるといった身体の刺激を通して、その情報を思考に定着させていく必要があります。そうやって、アナログと結びついてこそ、デジタルは力を持つ面があると思います」

 ――今、AIはどれだけ強いのですか。

 「先を読みまくる計算機としてだけでなく、AI同士を何百万回と対戦させてどんどん強くなっています。膨大な棋譜を絵としても読み込みながらフィードバックを重ねて、人間ならではと思われていた大局観までつかみます。将棋というものを勝ち負けだけで見るならば、人間が勝てるはずはありません」

 「私は2017年、AIのポナンザと対戦して、2連敗しました。その時すでにポナンザは人間より圧倒的に強い存在で、私が勝つ確率は3%もなかったと思います。しかし、ファンの方たちは名人位という存在に対して、神秘性とか幻想を持っています。その名人が負けたとあって、もう、AIの強さを受け入れざるを得なくなりました。それまでAIを使って将棋を研究することへの美学的な反発があったのですが、以後、AI研究がいわば『解禁』され、加速した象徴的な対局でした」

あの「5五銀」はAIを超えたのか?

 ――藤井聡太さんが八冠を達成した王座戦では、大逆転を呼び込んだ予想外の一手がAIを超えたなどと言われています。

 「形勢が定まっていない時…

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    中川文如
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長)
    2023年11月11日14時27分 投稿
    【視点】

    「人間はリアルな身体から逃れられないアナログな存在」。佐藤天彦さんの冒頭のこの一言に、ドスンと心をド突かれた気がします。 将棋に疎い不肖・私ですが、このインタビュー、とっても興味深く拝読しました。AIに人は太刀打ちできるのか。「のるか

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