第19回裏金事件で浮かぶ「カネ持ち支配」の構造 民主主義とのいびつな関係

有料記事政治とカネを問う

聞き手・田島知樹
[PR]

 「政治とカネ」の問題がまた起きた。自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件は国民の政治不信をますます高めている。岸田文雄首相は自民党の体質刷新に取り組む考えを示したが、政治思想が専門の野口雅弘・成蹊大教授は、問題は「カネ持ち支配」の構造にあると指摘する。どういうことか。野口さんに聞いた。

――また「政治とカネ」の問題です。

 「政治とカネ」と言うとロッキード事件やリクルート事件に代表される日本固有の問題のように聞こえますが、人類史上ずっと繰り返されてきた問題です。

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「政治学」で寡頭制について論じました。寡頭制とは、少数者による堕落した政治形態を指します。

 少数の富裕者がカネでポストを買い、世襲制を敷き、政治を私物化していく。政治が少数のカネ持ちによってゆがめられた状態と言ってもいいでしょう。古代ギリシャの時代からすでに政治とカネの問題として考えられてきたのです。

 政治資金パーティーをめぐる裏金問題は確かに問題ですが、特定の個人やグループの話で終わらせるべきではありません。根はもっと深いところにあります。

 ――どういうことでしょうか。

 確かに政治資金規正法を改正するなどして裏金作りが再び起きないようにすることは大切です。しかし、今回の事件が改めて浮き彫りにした問題があると思います。それが“プルートクラシー”です。

 プルートスはギリシャ神話における富と収穫の神です。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーはカネ持ちによる支配のことをプルートクラシーと呼びました。この支配では、資金力のある人たちが発言力を強めるため権力に近づき、権力を握る者にどんどんカネが集まります。莫大なカネを集めるアメリカの政党組織などを記述するのに、ウェーバーはこの用語を使っています。カネの側面を強調した寡頭制がプルートクラシーです。

野口さんは、政治とカネの問題をゼロにはできないと考えます。それどころか、ゼロにしたら新たなカネ持ち支配を生むと指摘します。記事の後半では、プルートクラシーとどのように付き合えば良いのか考えます。

 プルートクラシーは今日、世…

この記事は有料記事です。残り2287文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
田島知樹
文化部|文化庁担当
専門・関心分野
文化政策、国際政治、特に欧米の外交史
  • commentatorHeader
    綿野恵太
    (文筆家)
    2024年1月10日15時0分 投稿
    【視点】

    くじ引き民主主義をふくめた「民主主義の制度の多元化」にぼくも賛成です。古代アテネでは、専門性の高い軍事や財務以外の要職は抽選で選ばれた市民が就きました。くじ引き民主主義は古き良き伝統ある手法です。 政治参加の方法が選挙だけになるとやはり問

    …続きを読む

連載政治とカネを問う(全26回)

この連載の一覧を見る