第8回ブタから臓器移植「現実的に動き出した」 日本の研究班がめざすもの
A-stories 「世界競争」の始まり(4)
「(異種移植の研究態勢は)この1年で大きく進んだ。研究チームが動き出し、サルの実験もメドがたち、遺伝子改変ブタもできた」
今年2月、鹿児島市にあるビルの会議室。「日本異種移植研究会」の冒頭、鹿児島大准教授の佐原寿史は、こう述べた。
2023年、遺伝子改変したブタを使って異種移植の実現をめざす研究チームが、日本でも立ち上がった。
佐原はその研究代表を務める。「国内でも、異種移植が現実的に動き出した」
26回目となった研究会には、遺伝子改変ブタの研究者や移植医ら約90人が集まった。
これまで参加者は決して多くなかった。
それが、愛知県で開かれた23年の参加者は約100人に。ひっそりとではあるが、盛り上がりをみせる。
転機はやはり、22年の米メリーランド大からの報告だった。
日本でも「きちんとステップを」
ブタの臓器をヒトに移植したときに起こる、激しい拒絶反応が起きないように遺伝子改変したブタが使われた。
末期の心不全患者にそのブタの心臓が移植され、60日間生存した。佐原は「ヒトに移植する段階がもうやってきたのかと非常にびっくりした」と振り返る。
一方、患者には米国でも未承認の強力な免疫抑制剤が使われ、患者の体内からはブタ由来のウイルス感染の所見もみられた。
これらの点は、日本での「臨床入り」を考える際にも、大きな課題になるという。
佐原は「解決すべきことが多くある。機運は高まっているが、まだ基礎固めの段階。日本でもきちんとステップを踏んでいかなければ」と語る。
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研究会では、異種移植をめざすいくつかのプロジェクトの経過が報告された。
佐原らの研究チームの一員で、京都府立医大准教授の奥見雅由は、将来的にどんな患者が腎臓の異種移植の対象になりうるか、報告した。
奥見は「供給されるブタの数…