第9回「鉄道界のシンデレラ」新幹線開業で地元住民の足に 生き残りの鍵は

有料記事分岐点 ローカル線の行方

河原田慎一
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 首都圏からの上越新幹線が到着すると、降りた乗客が急ぎ足で階段を下り、在来線ホームに向かう通路を駆け出す。新潟県湯沢町の越後湯沢駅で、2015年まで日常的に見られた光景だ。

 乗り込む先は、越後湯沢と金沢をつないでいた在来線特急「はくたか」。越後湯沢駅を出たはくたかは、約15キロ北にある六日町駅から県などが出資する第三セクター「北越急行(ほくほく線)」に入り、日本有数の豪雪地帯である魚沼や上越地域を直線的に結んだトンネルを在来線最速の時速160キロで駆け抜けた。

 長野新幹線が延伸し金沢まで北陸新幹線が開通した15年まで、首都圏から北陸に行くにはこのルートが最も早い「大動脈」だった。

一転、「日本の原風景」走るローカル線に

 はくたかの名が北陸新幹線に引き継がれ、特急がなくなった後の「ほくほく線」は、主に地元の高校生や通勤客の足となった。約60キロある全線の約7割をしめるトンネルによって、大雪でも運休しない安定性が、雪国の生活を支える。

 観光路線としても、トンネルの多さを逆手にとり、車内の天井に映像を流したり、トンネル内にある美佐島駅を舞台に列車が照らし出す光と音楽を芸術作品にしてみたりと様々な試みに取り組んでいる。沿線で開く「大地の芸術祭」は、里山にアート作品が並び、国内外から人が集まるイベントになった。棚田やブナ林などの美しい風景がSNSにアップされ、訪日客もつめかける。

 沿線の十日町市松代地区でタクシー会社を経営する村山達三さん(79)は、「はくたか」の廃止が決まると、「地域からの感謝のしるし」としてはくたか車内で乗客にクルミなどの名産品を配る企画を実施した。「毎日、何千人もの人が車窓から『日本の原風景』を見てくれた効果は大きい。北陸新幹線ができた後も、松代を訪れる観光客はむしろ多くなった」

 だがほくほく線の経営は、「大動脈」から外れたことで厳しさを増した。

あの政治家の「鶴の一声」が……

 ほくほく線は、JRがまだ国…

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