「かあちゃんを守る」息子が手にした鉄アレイ 見落とされた事件の種
このままだと、かあちゃんが死んでしまう――。そう考えた長男(49)がとった行動は、鉄アレイで父親(当時81)を殴って殺すことだった。母に手を上げる父へと変えた老老介護のストレス、気づかなかった長男の障害、届かなかった福祉。被告が置かれた事件当時の状況が裁判を通じて明らかになった。
被告になった長男は2022年10月30日、父親の頭や顔を鉄アレイで殴るなどして殺害したとして殺人罪に問われ、今年6月の初公判で起訴内容を認めた。
東京地裁で開かれた裁判員裁判では、被告の生い立ちや事件の背景事情などが焦点となった。被告人質問などから経緯をたどる。
母が倒れ、父が1人で担った介護
被告は20歳ごろまで野球に打ち込んだ。小学生の頃は父親がコーチを務めるチームに所属し、中学時代はクラブチームでプレーした。高校は野球推薦で東京都内の強豪校へ。父親は野球の応援には何度も来てくれた。
高校卒業後、野球部を持っていた都内のインク製造会社に野球推薦で入社。だが、同僚となじめず3年ほどで退社した。野球もやめた。
その後は両親と同居しながら、複数のキャバクラや金融業などの仕事を転々とした。
30歳を過ぎた頃、母親が脳出血で倒れた。左半身マヒの後遺症が残り、車いすでの生活を余儀なくされた。
介護を手伝うと父親に伝えると、「俺がやるから」と断られた。入浴だけはデイサービスに頼んだが、食事の世話や排泄(はいせつ)などの介助、掃除、洗濯といった家事の一切は、父親が1人でこなした。
こうした「介護」がその後、事件へとつながる要因の一つになる。
被告は、その後も度々職を変…
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