夫との最後の旅になったのは10年前の夏休み。スペインへの旅だった。
思い返せば旅行中に1度だけ、夫がおなかが痛いと言った時があった。「食べ過ぎだな」と笑っていた。
旅行から帰って2カ月後、夫は膵臓(すいぞう)がんだとわかった。抗がん剤治療をした。転院して手術を受け、一時は退院した。だが2015年5月、夫は亡くなった。42歳だった。
尾崎文子さん(54)と三つ下の夫、泰之さんはともに公務員で、同じ仕事をしていた。ふたりで建てた都内の家に文子さんは暮らし、働き続ける。「小さい家だけれど、ひとりだと広いんですよね」
職場の研修で出会い、1998年に結婚した。出歩くのが好きな夫だった。飛行機が苦手でインドア派だった文子さんも旅行するようになった。ずっと一緒にいたかったから。互いにひっつき虫みたいに。
ヨーロッパや台湾へ。20カ国以上行った。これからも夫婦であちこち行くつもりだった。
45歳で夫を亡くし、ひとりになった。まわりには、なかなか気持ちを話せなかった。自分と結婚しなければ、夫は今も生きているのではないか。そんなことも考えてしまう。
ふたり並んで同じ方向を見ている。そんな夫婦だったと思う。仕事の上でも信頼し合っていた。仕事で迷って相談すると、自分が考えたことと同じ答えが返ってきた。やっぱり、これでいいんだ。心強かったのに……。
夫の2度目の命日がめぐって…