根底にある「気候正義」 EUがカーボンニュートラルを進めるのは?

有料記事電ゲン論

聞き手・多鹿ちなみ

インタビュー連載「電ゲン論」

 「脱炭素社会」の実現が叫ばれるいま、あらためて「電気」をどうつくるべきなのかが問われています。原発の賛否をはじめ、議論は百出しています。各界の著名人にインタビューし、さまざまな立場から語ってもらいました。

[PR]

 日本は2020年、欧州連合(EU)などと足並みをそろえる形で、50年の「カーボンニュートラル」を宣言しました。産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるという「パリ協定」を実現するためのもので、世界全体の温室効果ガス排出を、森林が吸収する分などを差し引き「実質ゼロ」をめざします。最初に宣言したのは07年のノルウェーで、日本が表明したときにはすでに、世界で100カ国以上が宣言していました。

 日本は諸外国と足並みをそろえる形で、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ、CN)をめざしています。ただ、この目標は極めて高い水準で、達成できるかは未知数です。欧州などのエネルギー政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の渡辺凜研究員は、経済成長や産業政策を軸とする日本の政策について、目標のあり方を問い直す必要があると訴えています。

 ――2050年のCNは、多くの国が目標としています。

 「数値目標が先行し、トップダウンに決められた点に問題があると思っています。政府の文書には、『カーボンニュートラル目標を表明する国・地域が急増し、GDP(国内総生産)総計で世界全体の約90%に達する』と触れられているだけで、気候変動が日本社会にとってどう問題なのか、なぜ対策が必要なのかが書かれていません」

 「脱炭素社会と一口に言っても、様々なあり方が考えられます。経済成長以外にも、将来の脱炭素社会に望むものはないのか。めざすべき社会の姿をよく考えることが必要ではないでしょうか」

 ――諸外国ではどのような社会を見据えてCNをめざしているのでしょうか。

 「たとえば欧州連合(EU)では、一握りの人が資源を開発・所有・商品化して恩恵を受けるシステム自体の問題性を問う『気候正義』の考え方があります。化石燃料の廃止を強く訴えているのも、温室効果ガスを排出しているという理由だけではなく、持続可能な社会と相いれないと考えるからです。米国のバイデン政権も、経済の底上げや中所得層の再興、社会インフラの刷新などの社会課題と、気候変動を結び付けて考えています」

 ――政策にはどう反映されていますか。

 「ロシアのウクライナ侵攻と、それに伴うエネルギー危機を受け、EUでは『脱炭素』から『安定供給』に回帰するのでは、と注目されました。ところが、化石資源の確保も一部で行われた一方で、ロシアの武器となり、EUの価値観に沿わない化石燃料依存からの脱却の必要性がいっそう強調される結果となりました」

 「二酸化炭素(CO2)を回…

この記事は有料記事です。残り1506文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
多鹿ちなみ
経済部
専門・関心分野
エネルギー政策、人権、司法